サムスン、現代自動車、SK、ポスコ、ハンファなど韓国の大手企業はどこもワシントンにオフィスを構えている。ワシントンで米国の行政府や議会の動向を把握し、関連する事業分野における政策の方向性を確認し、政府とその周辺の主要な人物と人脈を築き、米国と世界で事業を行えるようその企業にフレンドリーな雰囲気をつくり上げることが目的だ。研究開発に投資し、慈善事業に寄付することで好感度と魅力を高め、良い企業イメージも形成しようとしている。おそらくワシントンにある韓国企業のオフィスにとって、米国政府や議会、州知事を飛び越えてホワイトハウスともつながりを持つことができれば、それ以上にうれしいことはないだろう。ワシントンにはそれを可能にすると宣伝する多くのコンサルティング会社や法律事務所が数多くある。

 ところが最近はホワイトハウスの方から韓国企業に直接連絡してくるという。ホワイトハウスは半導体会議にサムスン電子を呼び、LGとSKによる電気自動車用バッテリーの営業機密訴訟にも介入して合意を引き出した。トランプ前大統領は就任直後「おぞましい韓米FTA(自由貿易協定)は再交渉するか終わらせる」と強く脅迫した。その当時は政府次元での対応が最優先だったが、バイデン政権は半導体の確保を国の安全保障問題と認識し、地政学的な価値をデジタル・サプライチェーンと連結して考え、その上で韓国企業と個別に接触しているのだ。いや、実際は圧力をかけているといった方がよいだろう。

 米国ではLGエナジーソリューションとSKイノベーションによる電気自動車用バッテリー紛争がつい先日終わったばかりだが、その際バイデン大統領は「米国が強くて多角化した電気自動車用バッテリーのサプライチェーンを確保するに当たってプラスになるだろう」として歓迎の意向を示した。気候変動対策を進める政策に合わせて電気自動車産業の育成に力を入れてきたバイデン政権もこの争いを落ち着いて見ていられず、自ら直接動きだしたということだ。またこの言葉は米国の国益という観点からも最善の結果が引き出されたことを同時に意味する。トランプ前大統領による荒っぽい「アメリカ・ファースト」とは違ったバイデン式の緻密な「アメリカ・ファースト」だった。

 2カ月前にバイデン大統領は半導体、バッテリー、レアアース、医薬品の四つの分野におけるサプライチェーンの問題点を100日かけて検討する行政命令に署名した。このような動きは「米国は特定の国の特定の商品にあまりにも依存し過ぎているのではないか」という懸念から始まった。サプライチェーンの問題点を把握し、その上で解決に向けて動きだすという意味だ。

 この四つの分野におけるサプライチェーンの検討は韓国とも密接な関係がある。KOTRA(大韓貿易投資振興公社)が先日公表した報告書によると、2020年の時点で米国における半導体製造装置の輸入統計では韓国が占める割合は29.5%だった。2位の台湾は18.2%、3位の中国は13%だ。米国におけるリチウムバッテリー分野では韓国のシェアは19.4%で中国の43.4%に次ぐ2位だった。米国において韓国は半導体とバッテリー産業の主導権を持つ国だ。ホワイトハウスがこれらの企業から目を離せない理由はここにある。

 ワシントンのある専門家は「LGとSKは、今や重要産業となったバッテリーのサプライチェーンをバイデン政権がチェックしていることの意味をしっかりと理解できているか疑問だ」と指摘した。両企業の対立は、この重要な分野で外国の企業が主導権を握ったときにいかなるリスクがあるかをバイデン政権に思い知らせる結果をもたらしたというのだ。つまりサプライチェーンの弱点を突き付けたということだ。

 トランプ前政権の外交が荒っぽくてうるさく脅迫するやり方だったとすれば、バイデン政権の外交は笑みを浮かべながらピンセットとメスを持って外科手術をするようなやり方だ。おそらく文在寅(ムン・ジェイン)政権はホワイトハウスに直接対応するしかない韓国のグローバル企業を支援したくともできないだろう。米中による貿易戦争が本格的な技術戦争へと拡大する中、関係する国々は国運を懸けた総力戦に取り組んでいる。ところが文在寅政権は今も北朝鮮しか見えない色眼鏡を掛け、中国の反応ばかりを気にしながら完全に違った方向に進んでいる。来月開催される韓米首脳会談で韓国がまた何か的外れなことを言い出さないか今から心配になってくる。

姜仁仙(カン・インソン)副局長

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