「管制センターから案内を申し上げます。安全距離の外から文化財をご鑑賞ください」

 4月6日、忠清南道保寧市の聖住寺址(し)五層石塔(宝物第19号)。接近を防ぐため遺物を囲んでいる保護幕を、ある観光客が越えた途端、警報音と共に案内放送が流れた。観光客が石塔に接近し続けると、退去を促す放送が再び流れた。「文化財の外へ早く出てください。そのままおられる場合、警察が出動します」

 同じ時刻、保寧市庁監視カメラ統合管制センター。数十台に上る監視カメラの画面を職員らが見守っていると、聖住寺址の現場がポップアップして大きく表示された。何者かが五層石塔に接近したという危険を赤外線センサーが感知したのだ。同時に、保寧市庁の担当学芸士のスマートフォンにも「聖住寺址 警報」のメッセージが届いて音が鳴った。監視カメラやセンサーが違法な侵入を感知し、統合管制センターを通して管内の警察官や文化財担当者にリアルタイムで状況が伝えられるシステムだ。

 保寧・聖住寺址(史跡第307号)は、文化財毀損(きそん)を防ぐため、文化財庁が「モノのインターネット(IoT)」を導入した「第1号」の現場だ。2018年に試験導入し、運営は4年目に入っている。今は跡が残っているだけの廃寺址だが、統一新羅時代の学者・崔致遠(チェ・チウォン)の文章が残されている国宝第8号「郎慧和尚塔碑」をはじめ五層石塔、三層石塔など国宝・宝物5点が1カ所に集中している。ところが人跡まれな野原にあるため、誰かが無断侵入したとしても素早く対応できなかった。1986年には、石の階段の前にあった獅子像が盗まれたにもかかわらず、しばらくたってからようやく盗難に気付くという事件もあった。

 この日、記者は文化財庁、保寧市庁の関係者と共に現場を見て回り、「模擬侵入」を行った。五層石塔では保護幕の中で手を揺らしただけでも赤外線センサーが感知し、警告放送が流れた。2度の警告放送の後も「危険」が続くと、警察が出動した。キム・ドンヒョン全州大学文化財防災研究所長は「人が中に入らず保護幕の外からペイントを振りかけても、これを感知する」としつつ「雨粒を危険と見なしてはいけないので、面単位の物体を認識できるように設計された。侵入信号を自動制御装置で伝送し、ここから再び統合管制センターに送るシステム」と語った。

 人の出入りが限定的な夜間は2基の「ライダー(Lidar)」が聖住寺址を守る。自律走行車の中心技術とも呼ばれるライダーは、人の目のように物体の形や距離まで認識するセンサーで、450平方メートルの区域内のライダー網に入った物体の動きを認識し、管制センターの状況室に伝える。イ・ミョンソン文化財庁安全基準課書記官は「文化財保護のパラダイムが『事後復旧』から『事前予防』に変わりつつある」とし「多くの人材と費用を投じなくとも文化財を保護できる効率的システム」と語った。またキム所長は「IoTが24時間文化財を守るシステムは韓国初で、世界的にも例がない」とし「文化財を守るシステムが逆に景観を損ねることのないようにするのが、最も重要な考慮事項だった」と語った。

 文化財庁は2023年までに、IoT文化財防災システムを韓国各地の山中や奥地にある「孤立した文化財」163件へと拡大する。今年は、忠清南道公州の清凉寺址五層石塔(宝物)など18件に国費13億ウォン(現在のレートで約1億2700万円)を投じる予定だ。

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