20日正午、ソウル市江南区の宣陵駅で会った入社2年目の会社員Kさん(27)は、午前中ずっとオフィスで他の社員の顔色をうかがいながら、ようやくランチタイムで出てきたと話した。前日にビットコインをはじめとする主な仮想通貨が一時30%以上暴落した「ブラックウエンズデー」のせいだった。ビットコインは2018年にも中国政府による徹底した規制のせいで1カ月間に4分の1になる大暴落を経験した。Kさんは「仮想通貨に投資する同僚6人のうち2人がきょうは突然年休と半休を取って出てこなかった」「8000万ウォン(約770万円)を投資したチーム長が出勤すると、『いつでも勝手に年休を取るな』と八つ当たりのような説教をした」と話した。Kさんは「自分も100万ウォン程度を突っ込んで、50%損をして、午前1時半すぎに寝たが、午前中はずっとチーム長と同僚の顔色をうかがい、いまようやく一息ついた」と漏らした。忠清北道の公共機関に勤務するLさん(30)も「普段は同僚と食事したり、コーヒーを飲んだりしながら、仮想通貨投資の話をするが、きょうは皆が静かで、沈み込んだ雰囲気だったので、一人で昼食を取りに出てきた」と語った。

 仮想通貨が大暴落した翌日の20日、オフィス街は投資資金を失った会社員たちで葬式ムードだった。就職情報ポータルサイト、サラミンが会社員1855人を調べたところ、仮想通貨に投資している会社員は全体の40%に達していた。その中心は新入社員から課長級の20-30代だ。何とか就職はできたが、マイホーム購入どころか、賃貸物件の保証金を工面するのにも苦しんでいる世代だ。1-3月の韓国4大仮想通貨取引所の新規加入者は67%が20-30代だった。

 19日午後から仮想通貨が暴落し、徹夜して出勤した会社員も多かった。20日午前0時から午前7時までの間、会社員の匿名掲示板「ブラインド」には「怖くて寝られない」「焼酒(ソジュ、韓国式焼酎)を2本飲んでも寝付けない」などと仮想通貨関連の書き込みが500件以上あった。突然の暴落で韓国国内の仮想通貨取引所であるビットサム、アップビットには投資資金を引き揚げようとする投資家が殺到し、19日から20日にかけ、出入金が遅延した。

 暴落当日、各企業のトイレや喫煙区域が混み合った。ソウルの大企業に務める入社3年目のJさん(28)は「午前11時ごろ、売買をしようと携帯電話を手にトイレに行ったが、個室が全て埋まっており、声一つなく、小さなため息ばかりが漏れていた」と話した。建設会社勤務のHさん(32)も「仮想通貨はやらないと言っていた同僚がきょうは1時間に1回トイレに行ったり、たばこを吸うと言っては出ていき、仮想通貨に興味はないと言っていた次長もチーム長が会議に入ると、1時間以上スマホばかり見ていた」と語った。職場で他人に告げず、ひそかに投資を行っていた「シャイな投資家」も暴落相場ではどうしても態度に出てしまった。

 前日に3万1000ドルまで暴落したビットコイン相場は20日午後、4万ドルを超える水準まで反発した。アルトコイン(非主流の仮想通貨)の代名詞となったドージコインも1日で50%暴落した後、20%反発するなど相場はジェットコースターに乗ったように変動した。しかし、相場が上がれば上がったで、下がれば下がったで職場は動揺した。会社員らは「仮想通貨で1カ月に年収分稼いだ」という人たちを見ると意欲を失い、無駄な剥奪感を覚えると口をそろえる。半導体メーカーの部長(42)は「入社4年目の社員が最近2日に1回遅刻し、会議用の資料も誤字だらけなので、『最近何かあったのか』と尋ねると、堂々と『仮想通貨のせいで眠れなかった』と答え、言葉を失った。自分の前でも遠慮なく仮想通貨アプリを見ている社員が多い」と話した。

 仮想通貨に投資する人と投資しない人の対立も起きている。経済シンクタンクで働くSさん(25)は「横の同僚のスマホから30分に1回、通知音がするので、『消してよ』と言ったら、仮想通貨の相場が5%変動するたびに鳴るんだと言っていた。通知音を切るどころか、仮想通貨の種類を勧めてきたので腹が立った」と漏らした。仮想通貨に投資していない流通業の会社員(26)も「エレベーター、カフェ、会議などでこの3カ月間、同期との会話は8割が仮想通貨だ。同期が『お前、一生家を買えないぞ』としつこくてうざかったが、最近の暴落がうれしい」と話していた。

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