昨年、ロサンゼルス・エンゼルスにやってきたジョー・マドン監督は「最近の野球は、みんな同じ楽譜で演奏する音楽と同じだ。投手は三振、打者はホームランにばかり熱中して、個性が消えてしまい、ファンがそっぽを向いている」と一喝した。だが、今年はそうした不満を口にしていない。エンゼルスのホームラン打者であり、先発投手の大谷翔平(27)が今年、完ぺきな「二刀流」をやり遂げて、今まで一度も聞いたことのないメロディを毎日奏でているからだ。

■初の「二刀流」MLBオールスター

 大谷の唯一無二の存在感は、米大リーグ(MLB)事務局が5日(以下、韓国時間)に発表した2021オールスター戦の名簿で明らかになった。14日に米コロラド州デンバーのクアーズ・フィールドで行われるオールスター戦で、大谷は投手兼打者として出場する。打者としてはアメリカン・リーグの指名打者(DH)部門ファン投票で選ばれ、投手としては専門家による投票で1位(121票)を獲得した。マドン監督は「大谷は(オールスター戦の)ホームランダービーに出場し、マウンドに立ち、さらにバッターボックスにも立つ。これまで一度もこんなことはなかった。野球ファンでなくともそのすごさが理解でき、関心を持つだろうね」とほほ笑んだ。

 一選手が大リーグのオールスター戦に投手であると同時に打者としても選出されたのは、大谷が初めてだ。「二刀流」の元祖ベーブ・ルースでもできなかった。大リーグのオールスター戦は1933年から始まったが、ルースが投手兼打者としてプレーしていた時期(1914-19年)はそれよりはるかに前のことだった。ルースは1919年以降、打者に専念した。

 大谷は最近17試合で14本塁打を放ち、打撃絶好調だ。ほぼ毎試合アーチを描き、大リーグの本塁打部門で全体1位(31本)になった。2位のウラジミール・ゲレロ・ジュニア=トロント・ブルージェイズ=(27本)と4本差だ。

 大谷はオールスター名簿が発表された5日、オリオールズ戦で飛距離約140メートルのソロホームランを放ち、オールスター出場を自ら祝った。この日、今季31号を出した大谷は、これまで松井秀喜=日本=が持っていたアジア出身大リーガーの1シーズン最多本塁打記録(2004年、31本塁打)と並んだ。この記録はエンゼルスが公式戦の約半分に当たる83試合目を終えた時点で到達したもので、この調子が続けば計算上は今季終了時に61本塁打もあり得る。これはベーブ・ルース、ロジャー・マリス、マーク・マグワイア、サミー・ソーサ、バリー・ボンズに次ぐ歴代6人目の1シーズン60本塁打バッターになるかもしれないという意味だ。大谷は長打率1位(7割4厘)、打点3位(67点)など、主な打撃部門で上位に立っている。

■大谷の前人未踏野球

 投手・大谷は打者ほど輝いてはいない。今季12試合に登板して3勝1敗、防御率3.60だ。

 1日に先発登板したニューヨーク・ヤンキース戦では、1イニングもたず3分の2イニング・7失点で早々に降板するという屈辱を味わった。しかし、投手として登板した翌日に指名打者でプレーするという驚異的な日程をこなして成し遂げた記録だ。ファストボールの最高球速は100マイル(約160キロメートル)に達し、「球が指先にしっかりかかる日」は敵なしだ。大リーグで213勝を挙げて収め殿堂入りしたジョン・スモルツ(54)=引退=は「大谷が投球に専念すれば、0点台の防御率を出すジェイコブ・デグロム=ニューヨーク・メッツ=のように活躍するだろう」と評した。

 大谷は大リーグ・デビューした2018年に「二刀流」で4勝・22本塁打を挙げ、アメリカン・リーグ新人王に輝いた。しかし、その年の秋にひじの手術を受けて2年間不振だった。「やはり『二刀流』は無理」という周囲の懸念を払しょくしようと、大谷は昨冬、自身の血液サンプルを分析して食事メニューを組み直した。卵が大好きだったが、競技力向上の妨げになるという結果が出たため、卵断ちした。そして今年、前人未到の道を歩んでいる。

 生まれて初めて大リーグのオールスターという舞台に「二刀流」でデビューする大谷は胸のときめきを隠すことができない。「初めてなので、まずは楽しみたい。ホームランダービーもあるので、全体的に楽しめたらと思う。コロラドで会いましょう!」

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