▲米シンクタンク「ケイトー研究所」が1990年から2019年までに米国で逮捕されたスパイを国籍別に分析した表。中国人は184人で、外国人の中で最も多かった。写真=ケイトー研究所

 英紙ザ・タイムズが8月9日に興味深い報道をしました。中国のスパイが香港難民を装って英国の移民申請をしたという内容です。

 政府消息筋の話を引用して報道しましたが、慎重な英国人たちらしく、具体的な数字や身元、申請日時などは公開していませんでした。「我々が見張っているから、入ってこようなどとは思うな」と暗に警告しているのでしょう。

■難民の行列の中に中国の固定スパイ

 香港国家安全維持法の施行以降、多くの香港人が海外移住を選択していますが、英国もその移住先の一つです。今年5月までに英国移住申請件数は3万4000件に上ったそうです。

 香港が中国に返還された1997年7月1日以前に生まれた香港の住民は、英国政府から「海外英国国民(BNO=British National Overseas)パスポート」を発行されます。このBNOパスポートを持っていてビザを発給してもらえば、5年間英国で暮らすことができ、後に永住権と市民権も申請できるのです。

 英国移住を申請した中国のスパイたちは長い間香港に居住してきた固定スパイたちだといいます。これらは香港人の中に入り込み、英国に根を下ろそうとしているのです。

■中国スパイ探し作戦

 習近平国家主席の執権以降、米中の競争が激化し、西側諸国には中国スパイ警戒令が下されました。2018年11月に米司法省が中国スパイの侵入を防ぐための「チャイナ・イニシアチブ」を本格化させて以降、英国・ドイツ・オーストラリアなどもこれに加勢する雰囲気になっています。

 英国は昨年、記者を装った中国国家安全部要員3人を追放しました。ベルギー情報当局も昨年、記者としてブリュッセルに来ていた中国のスパイ2人に欧州連合(EU)の機密情報を渡した疑いで、英国情報機関MI6の要員だった英国の企業家フレーザー・キャメロン氏の調査を開始しました。

 ドイツ検察も昨年5月、政治シンクタンク「ハンス・ザイデル財団」の幹部を務めたことがある政治学者クラウス・ランゲ氏を中国のスパイ容疑で起訴しました。

 米国シンクタンク「ケイトー研究所」は1990年から2019年までの30年間に米国で逮捕されたスパイ1485人を分析した報告書を今年2月に出しました。このうち約60%の890人が外国人でした。中国人は184人(全体の12.4%)で、外国人の中で最も多くの割合を占めました。

 中国の海外諜報活動は、国務院傘下の国家安全部、党の機構である統一戦線工作部、人民解放軍総参謀部が主導しています。世界50カ国以上、170以上の都市に要員を配置していると言われます。

■人海戦術とサイバー侵入

 米国と中国、ロシアはスパイ活動に特色があると言われます。ケイトー研究所の報告書に興味深い比喩(ひゆ)が登場しています。

 「ある海岸が諜報収集対象だとすれば、ロシアは潜水艦と潜水要員を送って夜にこっそり海岸の砂を集め、米国は衛星データで砂の成分を分析する。一方、中国は1000人の観光客を海岸に送り、彼らが持ち帰った砂を集めて分析する」というものです。

 米国が中国人留学生数千人を引き揚げさせ、中国共産党員の入国を制限するなど、中国人移民統制を強化しているのは、まさにこのような人海戦術式の諜報戦略を遮断しようということです。

 もう1つの軸はサイバースパイ活動です。今年初め、マイクロソフトのExchange電子メールサーバーが中国人ハッカーたちにハッキングされました。

 ワシントンD.C.の複数のシンクタンクと団体、米国防総省に納品する軍需企業をはじめとする多くの中小企業がこの電子メールサーバーを使用しており、被害に遭った企業・機関は約3万カ所に達するそうです。電子メールサーバーがハッキングされれば、内部でやり取りされている電子メールがすべてハッカーの手に渡ることになります。

 中国はこのように一方ではさまざまな身分を装った中国人、もう一方ではハッカー部隊を動員して、世界各地で政治・軍事情報、産業・技術情報をかき集めているのです。韓国も主要攻略対象になっていることでしょう。

崔有植(チェ・ユシク)北東アジア研究所長

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