【特集】韓国採用ミスマッチ(中)

必要な人材を採用できる企業はわずか20%

 京畿道城南市板橋洞のある大手ゲーム開発会社は新入社員のソフトウエア・エンジニアに開発業務ではなく宿題を課している。ゲーム開発に必要なプログラミング言語について学び、その上で簡単なプログラムを作るという課題だ。大学2-3年生で学習するはずの基礎的なレベルだが、ほとんどの新入社員にとってこの課題は非常に難しいという。大学で問題解決型の決まり切ったコーディング(コンピューターのプログラミング)しか学ばなかった新入社員たちは、少しでも創造性が求められただけで戸惑ってしまうという。この会社の幹部クラスのエンジニアは「新入社員は入社試験の過去問だけを必死で覚えて入ってくるケースが多く、実際のプログラム開発能力はみんなあまりにもずさんだ」「1対1で張り付いて基礎から教えなければならないので大変だ」と述べた。

 最近はどこの企業の人事担当者も「スペック(学歴や取得資格など)が高い新卒はたくさんいるが、本当に必要な人材はいない」と語る。韓国の産業界で半導体やバッテリー、ソフトウエアなどハイテク分野の比重が高まり、これらの分野に通じた多くのエンジニアが求められているが、大学新卒者はその能力が企業の求めるレベルに達していないのだ。ある半導体メーカーの役員は「新入社員のほとんどは専攻分野の教科書を読んできただけで、半導体製造ラインがどうなっているかを見学したことさえない」「大学の半導体関連学科の教授たちには10年以上前から教育の見直しを求めてきたが、実際は何も変わっていない」と嘆いた。

■ソウル大学・高麗大学・延世大学出身者も現場への適応に1年

 ゲーム、ソフトウエア、AI(人工知能)などの業界では「最近どの分野でもエンジニアの求人難が問題になっているが、これは大学の教育がその原因だ」と口をそろえる。実際に上位名門大学のコンピューター関連学科では、コーディングを直接行わせるよりも理論的な背景を教えることに力を入れている。首都圏の四年制大学でコンピューター工学を専門とする教授たちは「コーディングの授業は教授ではなく講師が担当するケースが一般的で、彼らは一人で多くの学生を教えているので大変な労力が必要だ。そのため基礎的な理論を伝えることに力を入れている」と語る。ゲーム業界やネット業界で実際に使えるコーディングの応用能力を教えることは現実的に不可能な仕組みになっているのだ。

 バッテリーの業界では最初から研究職を採用するのは難しい。サムスン、LG、SKなどの大手メーカーは今電気自動車用のバッテリー事業に力を入れており、電解質や電極などの素材開発に必要な化学専攻の人材はもちろん、これらの素材を効率的に包括するモジュール分野のエンジニアの需要も高まっている。しかしどこの企業も開発者の60-70%は化学分野の出身者で充当できるが、モジュール開発に必要な物理学分野の出身者はほとんどいないという。また実際に物理学専攻の学生を採用しても、化学に関する理解が足りないケースがほとんどのようだ。そのためあるメーカーの開発担当者は「LGは先日、忠清北道の梧倉工場に世界初のバッテリー専門教育機関を建設すると発表したが、これは言い換えれば韓国の大学ではこの種の教育がまともに行えないことを意味する」と指摘した。

■人材養成の余力がない中小企業「育てても大企業に転職」

 中小のメーカーでは人手不足がさらに深刻だ。名門大学卒の新卒は全て大手企業に行き、しかも大企業とは違って独自の研修を行える条件もそろっていないからだ。ある中小の電子機器メーカー社長は「私費を使い2-3年かけて新入社員を教育したが、その中の10人中9人は大企業に転職する」「最近は最初から大学の新卒ではなく定年退職したシニアのエンジニアを採用している」と述べた。年間売り上げが1兆ウォン(約940億円)規模のある中堅化粧品メーカー社長は「業界の平均よりも年間の給与を数百万ウォン(数十万円)上乗せして首都圏の大学新卒者を採用しているが、それでも彼らは実験室で研究した経験さえほぼない」と語る。

 専門家は「大学は急速に変化する産業現場と懸け離れた理論教育ばかりに力を入れている。そのため人材のミスマッチは深刻になっている」と指摘する。KAIST(韓国科学技術院)経営学部のチョ・デゴン教授は「米国のマサチューセッツ工科大学やプリンストン大学、シンガポールの南洋理工大学など海外の主要大学はヒューレット・パッカードやインテルなどのグローバル企業と共同で研究所を立ち上げ、大学と企業に必要なエンジニアを養成しているが、韓国では大学が産学協力に消極的で、これが現場に通じた人材養成の障害になっている」と指摘した。

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