米国バイデン政権の核兵器政策において「核の先制不使用原則」が採択される可能性が浮上したことを受け、英国、フランス、ドイツ、日本、オーストラリアなど同盟各国がこれを阻止するための活発なロビー活動を展開していることが分かった。英国のフィナンシャル・タイムズが30日に報じた。核の先制不使用原則とは「米本土が核による攻撃を直接受けない限り、先に核兵器を使用しない」を意味するもので、米国がこの原則を採択した場合、国際社会における安全保障環境に大きな影響を及ぼす恐れがある。ロシア、中国、北朝鮮などが核兵器あるいは圧倒的な在来兵器を使って周辺国に圧力を加えるとか、あるいは実際の武力使用に乗り出した場合、これを効果的に抑止する方法がなくなるからだ。

 フィナンシャル・タイムズは「米国政府は来年1月に発表する核戦略指針『核態勢見直し』(Nuclear Posture Review)の作成を進めている」とした上で「同盟国の多くはこの報告書に核兵器の先制不使用原則が記載されないか懸念している」と報じた。実際にバイデン政権発足後、米民主党などのリベラル派から「米国は核の不使用原則によって核非拡散の動きを起こさねばならない」との声が上がっている。匿名を求めたある有力関係者は「(米国政府がこの原則を採用すれば)中国とロシアへの非常に大きなプレゼントになる」と指摘した。北朝鮮、中国、ロシアなどの敵性国家が韓国や日本、オーストラリア、欧州などの同盟国を制圧できると判断し、それに基づく核兵器を使った挑発の可能性や脅威が高まりかねないからだ。

 これまで米国は核兵器の使用について「曖昧な態度」をあえて維持してきた。敵の核攻撃が近づいた場合、先に核兵器を使用できる状態を米国は維持してきたのだ。とりわけ核兵器はもちろん、在来兵器や生物化学兵器による攻撃を受けた場合でも核兵器を使用する余地を残した形だ。これによって敵国によるいかなる軍事挑発にも対応できる事前の抑止力を発揮してきたのだ。

 しかし先制不使用原則が採択された場合、今後はこのような効果を期待できなくなる。これは最終的に韓国など米国の核の傘に守られた同盟国が米国の防衛公約を信頼しなくなる結果を招きかねない。フィナンシャル・タイムズは「(米国が核政策を見直した場合)韓国や日本などの同盟国に独自の核武装を促す恐れがある」「結果的にこの地域一帯に軍事拡張競争を引き起こしかねない」と指摘した。

 

 バイデン政権に対しては先日のアフガニスタンからの撤収、さらにオーストラリアへの原子力潜水艦開発支援などを巡って同盟各国から「事前に十分な相談を受けていない」「今回も米国が(十分な相談なく)核政策を見直すのでは」など懸念の声が上がっているという。とりわけ米国のオースティン国防長官が先月ブリュッセルのNATO(北大西洋条約機構)本部を訪問した際、同盟国からのロビーが非常に激しかったことをフィナンシャル・タイムズは伝えている。バイデン大統領も20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するため欧州を歴訪中だが、同盟各国の中にはバイデン大統領から直接話を聞こうする動きも活発だという。

 核の先制不使用問題はオバマ政権当時から議論されてきた。オバマ政権は2010年「核兵器のない世界」を掲げ「核の先制使用禁止」を採択するか真剣に検討した。しかし実際はこのような政策の見直しは行われなかった。当時も日本など米国の核の傘に守られた同盟各国が懸念を表明し、さらに米国務省や国防総省など国内からの反対も激しかった。逆に2017年のトランプ政権発足後は米国務省が「核の先制使用禁止政策の危険性」という報告書を出した。

 その後、バイデン政権発足後の今年4月、民主党所属のアダム・スミス米議会下院軍事委員長、米議会上院軍事委員会所属のエリザベス・ウォーレン民主党上院議員が「核の先制不使用原則」を法律に明記する法案を提出し、この問題を巡る議論が再びワシントンで活発になった。ただしバイデン政権はこの問題で明確な立場を示していない。一方でバイデン大統領がこの原則に言及しなかったとしても「核兵器の唯一の目的(sole purpose)」と呼ばれる原則を打ち出すとの見方も出ている。これは「米国の核兵器は在来兵器や生物化学兵器を除き、ただ核兵器による攻撃を受けた場合にのみこれに対抗するため使用できる」というもので、バイデン大統領がオバマ政権の副大統領だった当時から何度か強調した原則だ。ただし同盟各国からは「その場合も同盟国に対する防衛公約が弱まる」と懸念の声が上がっている。

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