米国では1974年に当時のニクソン大統領がウォーターゲート事件によって辞任し、フォード副大統領が大統領となったが、フォード大統領は就任からわずか1カ月後にニクソン前大統領を赦免した。スタッフ全員が反対したが、フォード大統領は「分裂と憎悪を乗り越え未来に向けてスタートしなければならない」として反対を押し切ったという。世論は「いかさま赦免」などとして激しく反発した。「ニクソンはフォードから赦免の約束を取り付けてから大統領を辞任した」というのだ。そのためフォード大統領は大統領でありながら議会の公聴会に出席した。支持率も一気に落ち込み2年後には大統領選挙で破れた。しかし後の歴史家たちは「赦免は政治的な破局を防いだ。難しかったが正しい決定だった」と評価している。

 

 

 韓国では1997年12月、第15代大統領選挙の3日後に当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領と選挙で当選した金大中(キム・デジュン)氏が会談した。この席で軍事クーデターや収賄などの罪で服役中だった全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領と盧泰愚(ノ・テウ)元大統領に対する赦免が決まった。金泳三大統領も金大中氏も全斗煥・盧泰愚元大統領に対する恨みは深かった。一部国民からの反発も大きかった。しかし金大中氏は赦免を訴え、二人を逮捕した金泳三大統領もこれに応じて大きな決断を下した。

 朴槿恵(パク・クンヘ)元大統領は2017年3月に崔順実(チェ・スンシル)国政壟断(ろうだん、利益を独占すること)事件で逮捕・収監されてから4年9カ月が過ぎ、大統領在任期間(4年1カ月)よりも長くなった。海外ではペルーのフジモリ元大統領が反人権や腐敗などの容疑で12年にわたり服役してから赦免を受けたケースもある。しかし朴槿恵元大統領の服役期間は韓国では盧泰愚元大統領(768日)と全斗煥元大統領(751日)をはるかに上回る最長記録となった。朴槿恵元大統領は来年2月に満70歳となる。これまで何度もヘルニアの治療も受けてきた。刃物で切られ、火に焼かれたような痛みで夜も眠れないという。一時は椅子さえ与えられず本の上に座っていたこともあるという。

 政界では赦免を求める声が何度も上がった。与党内でも昨年の総選挙前には「朴槿恵赦免をカードとして野党勢力を分裂させよう」などの意見もあった。与党・共に民主党の李洛淵(イ・ナクヨン)元代表は今年の初め「赦免を大統領に建議したい」との考えを示した。しかしそのたびに与党の主流派は「キャンドル(革命)に対する裏切りだ」として強く反発した。青瓦台(韓国大統領府)も「まだ時ではない」として断った。朴槿恵元大統領に対する刑の執行停止は検察も認めなかった。

 今回のクリスマスあるいは新年に朴槿恵元大統領が最後の特赦を受けるとの見方もあった。しかし最終的にはこれもなくなったようだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権の5年間を最後まで刑務所で過ごすことになったのだ。朴槿恵元大統領は支持者とやりとりした手紙を本としてまとめるという。この本の序文には「耐えがたい苦痛と生きることの無常さを感じた」という言葉がある。一時は権力者だったが、同時に女性でもある彼女の痛みを抱き、乗り越える度量を示すことはできないのだろうか。

ペ・ソンギュ論説委員

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