▲現代自動車蔚山工場本館前の芝生広場で「2022賃金交渉勝利に向けた出征式」を行う同社労働組合。5月25日撮影。/聯合ニュース

 現代自動車蔚山工場は今年「生産職平均年俸1億ウォン(約1050万円)時代」に入る可能性が高いという。この工場では在職期間の長い労働者が多く、そのため平均給与は現在9600万ウォン(約1010万円)ほどに達している。しかし現代自労組は「もっと多くの賃金」を求め賃金の大幅引き上げの要求貫徹を宣言したのだ。

 「ブルーカラーの年俸1億ウォン」は韓国製造業の歴史で一つの転換点になりそうだ。しかしそれは何もせずただやって来るわけではなく、その点は残念だ。現代自動車の生産職が手にしている高額年収は新たに生産現場に入った若い労働者にとっては最初から手に入らない特権に過ぎないからだ。現在の中高年中心の過激労組に振り回されてきた現代自は、今後定年で毎年2000-3000人の生産職が退職した場合でも、その代わりとなる若い従業員を採用しないからだ。さらに現代自労組は定年を伸ばして今の特権をさらに延長しようと動き出している。

 生産職の年収がいくらであってもそれは彼らを雇用した現代自が決めることだ。しかし現代自の国内法人は今年1-3月期に3600億ウォン(約380億円)近い赤字を記録した。原材料不足など外からの要因が大きかったが、より根本的な原因は、海外工場で10人いればできる仕事を韓国国内では18人で行い、それでも高い賃金を受け取るいびつな構造にある。韓国国内の自動車市場で85%のシェアを持つ独占的な地位を維持し、また国内の工場ではどこも最新の自動化設備を持っているが、それでも赤字が出るのはある意味当然のことだ。このような構造でも現代自労組は海外を含む企業全体で得た純利益の30%を成果給として堂々と要求している。黒字を出す海外工場のおかげで世界における現代自全体の利益が黒字になっているおかげだ。

 1%台の営業利益率に苦しむ協力会社や下請け企業の労働者、外車よりも現代自や起亜自の車を圧倒的に選択する韓国の消費者は、赤字にかかわらず高い年収を求め大騒ぎする現代自生産職をどう見ているかあえて問うべきだろうか。専門家は「現代自はすでに一高三低の泥沼にはまっている」と指摘する。一高三低とは「高賃金」「低い生産性」「低効率」「低収益」の構造を意味する。

 現代自の一高三低構造は日本のトヨタと明らかな違いがある。現代自は国内で赤字を出し、海外でこれを埋め合わせているが、それとは違いトヨタは海外はもちろん国内市場でもさらに大きな収益を出している。企業の生き残りを最優先と考える労使双方が共に築き上げた圧倒的な生産性のおかげだ。これによってトヨタはテスラによる電気自動車革命の中でも最大のパイを守り、電気自動車への転換に向け着々と準備している。

 現代自は「電気自動車への転換はそれでもわれわれがトヨタの先を行っている」と言うかもしれない。しかし冷静に見ると現代自は電気自動車市場でテスラ、従来の内燃車とハイブリッド車の市場ではトヨタに必死でついていくしかない立場にある。

 テスラ中心の大きな変化の中で自動車メーカーはIT企業化している。自動車産業の変化のスピードが今後はるかに早くなるという意味だ。アイフォーンの出現に対応できずノキアやモトローラが消えたように、同じことが自動車業界でも起こりかねないということだ。インテルの元CEO(最高経営責任者)アンディ・グローブ氏は「ビジネスの世界では偏執狂だけが生き残る」と語った。メモリーを放棄した米インテルをシステム半導体の最強メーカーとしたグローブ氏は「一瞬の転換点を逃せば生存競争で永遠に消え去るしかない」とも警告した。

 ところが現代自を巡っては「他のグローバル企業のような危機感や切迫感はあまり感じられない」との指摘が相次いでいる。電気自動車への転換という巨大な変化の中で生き残るには現代自も自ら奮発すると同時に、労働組合が特権を手放すことが何としても必要だ。それができない場合、蔚山発の「ブルーカラー年収1億ウォン時代」が今年か来年に実現したとしても、次の世代の労働者には引き継がれない韓国自動車産業の単なる一時的な追憶に過ぎなくなるかもしれない。

李吉星(イ・ギルソン)記者

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