▲イラスト=パク・サンフン

【韓国ジェンダーリポート2022】〈第10回〉

 ソウル市在住のAさん(60)は、昨年30年近く勤務した会社を退職し、家族と日常を共有するようになった。若い頃、地方への転勤が多かったが、妻が「子どもたちの教育のためソウルに残る」と言い、週末婚が続いた。ところが引退後の家族との人生は、考えていたものとはあまりにも懸け離れていた。就職もせずにぶらぶらしている息子を「情けない」と戒めるが、息子は返事をせず、妻は息子の肩を持つ。先日、息子が小言を言う父親を手で押したものの、妻と娘が止めもせずに見ていたことに、衝撃を受けた。Aさんは「一生アリのように働いて全ての給料をささげてきたが、今では3人がチームとなって、私をよそ者扱いする。一体何のために生きてきたのか分からない」と首をうなだれる。

 「家にいると『サムシギ』(3食の食事を家で済ますという意)と言われ、外に出ると『金食い虫』とされ、顔色をうかがうようになる」定年退職後の男性たちは、老後の夫婦間の対立が若い頃よりも増したと口をそろえる。2020年に行われた韓国統計庁による社会調査の結果、「配偶者の満足度」は男女共に30代が、86.9%、77.6%と最も高く、年を取るごとに低くなり、60歳以上では69.3%、52.9%へとそれぞれ低下する。

■配偶者満足度

 引退した男性の最大の喪失感は、毎月振り込まれていた給料が途切れることだ。妻の声が大きくなるたびに、経済力のない自分が無視されているように思え、憂うつになり、言い争いも増える。経営していた食料品店を4年前に辞めたパクさん(73)は「先日から私がユーチューブでトロット(韓国演歌)を聞くと、妻は『うるさい、耳が悪いのか』と大声を張り上げるようになった。何か言えば、まずは腹を立てる」とし「以前は大声を一度も出さなかった人なのに、今では私がお金を稼げなくなったため、見下すようになったのかと思うと、嫌な気分」と話す。

 地位の上下にかかわらず、引退後の男性は皆、こうした状況にやりきれなさを感じている。最近、前職長官たちの集まりで「使い捨てゴム手袋」が話題になったという。集会に参加したある関係者は「男性たちは退職するとよく皿洗いをするようになるが、一般のゴム手袋よりも手にフィットする使い捨てゴム手袋が便利だと誰かが説明し始めたことで、皆が大きな関心を示した」とし「外でこそ長官であって、退職後は妻の前で身動き一つできない一介の夫」と話す。

 妻との対話がかみ合わないのも問題だ。教育公務員として退職したイさん(67)は「退職してみると、妻は私の人生についてよく知らず、私も家事に関心がなかったので、妻がどんな人生を送ってきたのか分からなかった。だから互いに話すことがなく、意見の衝突だけが生じた」という。数十年にわたって積み重なってきた夫の実家に対する不満を妻が打ち明け、大げんかに発展することもあった。小学校の同窓生と結婚したBさん(64)は「妻が結婚初期にあった嫁しゅうとめ問題を今になって取り上げるため、それを聞いている私は嫌な気持ちになるが、時にはコントロールできなくなるほどだ」とあきれた表情で話す。

 子どもたちも薄情だ。自分とは言葉を交わさず、妻とはまるで友人のようによく会話する。妻は、孫の面倒を見るため食べ物を作って子どもたちの家に出入りするが、男性たちにはそれも容易でない。子どもたちに勇気を出して話し掛けるが「コンデ(偉そうに振る舞う高齢者をばかにした表現)」「時代遅れ」と言い返されるのが落ちだ。国営企業の退職を3年後に控えたキムさん(58)は、娘(28)とテレビを見て「あの女性(芸能人)すごくスリムだね」と言ったら、娘に「外でむやみに外見を評価しようものなら、大変なことになる」と叱られた。キムさんは「そばにいる妻も娘の肩を持つが『一生家族たちを食べさせた私よりも芸能人の方が重要なのか』と感じ、とても寂しい思いになる」と肩を落とす。

 引退後、家にいると気を使うため、仕事探しに出掛けることもある。地方高校の教頭を務めたパクさん(72)は、学校施設の管理職員として志願し、勤務していたものの、最近では障害者用のコールタクシー(電話などで呼ぶタクシー)の運転手として働いている。「この期に及んで体面が必要ですか。お金を稼いでこそ家長としての存在感を維持することができるので、とにかく頑張らなければなりません」

〈特別取材チーム〉金潤徳(キム・ユンドク)週末ニュース部長、キム・ヨンジュ社会政策部次長、卞熙媛(ピョン・ヒウォン)産業部次長、キム・ギョンピル政治部記者、ユ・ジョンホン社会部記者、ユ・ジェイン社会部記者、ユン・サンジン社会部記者

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