▲昨年12月に国家情報院が家宅捜索を行った済州道にある進歩政党支部委員長の自宅。/NEWSIS

 済州のスパイ組織「ヒウッ・キヨック・ヒウッ(ハングル字母)」事件を捜査している国家情報院と警察は、北朝鮮とつながる地下組織が慶尚南道昌原、晋州、全羅北道全州など全国各地に結成されている動きを把握し、捜査を拡大していることが9日までに分かった。各地の地下組織を総括する上部組織の名称は「自主統一民衆前衛」とにらんでいるようだ。国家情報院はこれらの組織が各地の政治団体や社会団体はもちろん、建設労組や貨物労組など複数の労働組合に浸透している疑いについても捜査を行っている。1992年の朝鮮労働党中部地域党事件以来、最大規模のスパイ事件になるとの見方も浮上している。

 捜査当局などによると、国家情報院は昨年末に済州道で北朝鮮の指示を受けたなどの容疑で関係者の自宅や事務所を家宅捜索したが、今回昌原、晋州、全州でも同じ容疑で家宅捜索を行った。容疑者らは「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」と同じく北朝鮮労働党直属の対南工作機関である文化交流局の指示を受け、地下組織を立ち上げこれを通じて反政府活動や利敵活動などを行った疑いが浮上している。容疑者らは北朝鮮工作員と海外の電子メールアドレスやクラウド用のID・パスワードを共有する手口で連絡を取り合ってきた。これは「サイバーDvok」と呼ばれる新たな手法で、この方法でこれまで数年にわたり北朝鮮と連絡を取り続けてきたという。

 韓国の捜査当局は「自主統一民衆前衛は全国各地に散らばる北朝鮮の地下組織を総括する中央組織」とにらみ、昨年11月に昌原で活動するリベラル・左派団体の関係者少なくとも4人が住む住宅などを家宅捜索したという。本紙が入手した家宅捜索令状などによると、容疑者らは2016年ごろに昌原で自主統一民衆前衛を設立し、北朝鮮からの指令を随時受けながら反米集会や反保守闘争デモなどを行ってきた疑いがある。自主統一民衆前衛は「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」など済州・晋州・全州を含む各地の地下組織と連携し、全国民主労働組合総連盟(民労総)など合法団体の掌握に力を入れてきたという。北朝鮮は「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」に送った指令文で「民労総傘下にある済州4・3統一委員会の掌握」「労働組合や進歩系団体などを使った進歩政党候補者の後押し」などを指示したことも分かっている。北朝鮮の複数の地下組織は労働組合や政党など合法団体に浸透して組織を掌握する手口を使っているようだ。

 スパイ防止当局は北朝鮮が地下組織の拠点を今回のようにソウルではなく昌原に置いた点に注目しているが、これについては「首都圏以外の地域では労働組合などへの浸透が比較的容易だったため」と分析しているという。とりわけ昌原はハンファディフェンス、LIGネクスウォン、現代ロテムなどの軍需関連企業に加え、国防科学研究所第5技術研究本部や陸軍総合整備廠(しょう)など国防や防衛関連の政府機関が集まる都市でもある。

 2021年に摘発された「自主統一忠北同志会事件」でも同じように北朝鮮は韓国の合法団体を地下組織の活動に利用していたが、今回も北朝鮮が全国各地で韓国の合法団体に浸透している実態が明らかになった。忠北同志会事件で北朝鮮と連絡を取り合っていた忠清北道清州地域の複数の労働団体関係者は2020年10月、当時国会外交統一委員長だった宋永吉(ソン・ヨンギル)元・共に民主党代表と面会し、北朝鮮への支援を要請していた。捜査当局は昌原の組織と「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」、さらに全州支部などによる連携についても調べており、警察の関係者も全ての可能性を念頭に捜査を行っていることを明らかにしている。スパイ防止当局はソウルでも北朝鮮地下組織の存在を疑っている。地下組織の構成員らがソウルで会合を持った痕跡が見つかっているからだ。

 これに対して自主統一民衆前衛や「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」などは「韓国政府は自分たちの失政を隠すため公安事件と決め付けて攻撃している」として反発を強めている。自主統一民衆前衛はメディアとのインタビューで「2018年の昌原世界射撃選手権に出場した北朝鮮選手団を応援し、開城工業団地の再稼働を求める集会や親日積弊清算集会など市民団体として独自の活動をしてきただけだ」「北朝鮮の指令を受けたとか、背後で指示を受けた事実などない」と主張した。これに対して捜査当局は「彼らが第三国で北朝鮮の工作組織と接触し、ネットを通じて北朝鮮からの指示を継続して受けてきた具体的な動きを捕捉している」「この点を裁判所も認めたので家宅捜索令状が出された」と反論している。

盧錫祚(ノ・ソクチョ)記者

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