東南アジアの人口大国インドネシアが、南シナ海の排他的経済水域(EEZ)に対する本格的な開発に入ったことで、中国との外交的・物理的衝突の可能性が高まっている。中国は南シナ海の大部分を自国の領海だと主張している。特にインドネシアは、この水域に対する領有権を巡って中国と対立を起こしている他の東南アジア諸国とも緊密な協力体制を構築し、反中戦線をつくっていく構えだ。

 米外交専門誌「The Diplomat」や日本経済新聞など外信によると、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2022年12月下旬、ベトナムのグエン・スアン・フック主席(当時)と首脳会談を行い、両国の最大の懸案だったEEZ確定交渉を妥結させた。両首脳はこれとともに、インドネシア側のEEZ内にあるナトゥナ諸島付近の大陸棚「トゥナ・ブロック」開発プロジェクトを巡っても最大限協力することで合意した。インドネシアが計30億ドル(現在のレートで約3900億円)を投じてこの地域のガス田を開発し、2026年からこの天然ガスをベトナムに輸出することとした。トゥナ・ブロックには原油や天然ガスなど、エネルギー資源およそ1億バレル(原油換算基準)以上が埋蔵されているものと推定されている。

 南シナ海を間に挟んでいる両国は、過去およそ10年間、EEZの範囲を巡って対立を繰り広げてきた。インドネシアはナトゥナ諸島付近で操業するベトナム漁船数十隻を拿捕(だほ)し、時には漁船をめちゃくちゃにすることもあった。2017年には、インドネシアがベトナム漁船5隻の拿捕に乗り出すや、ベトナム海軍の艦艇が出動して救出するという一幕もあった。

 インドネシアがベトナムとの過去のわだかまりを解いてEEZ交渉を妥結させ、大陸棚開発に乗り出したことで、中国に立ち向かう対抗勢力としての存在感も大きくなる見込みだ。中国は1953年、南シナ海を馬蹄(ばてい)形に取り囲む「南海九段線」を設定し、当該海域を自国の領海だと主張してきた。2000年前の漢の時代から、この海域の島々を管理してきたというのだ。

 中国は、この水域に対する武力行使もためらわない。南シナ海の無人島に人工島を増設し、軍事基地を建設した。国際常設仲裁裁判所(PCA)が2016年、九段線について国際法上の根拠がないと判決を下したが、中国の攻撃的な進出は止まっていない。今回、ベトナム・インドネシア両国が協力関係を構築するとしたナトゥナ諸島付近の海域も、中国の九段線の中に入っている。この諸島は中国の海南島からは1500キロ、インドネシアからは270キロ離れている。日経新聞は「インドネシアがベトナムとのEEZ交渉を妥結させたことで、中国対応に弾みがつくことになった」とし「インドネシアはロシアのウクライナ侵攻を教訓とし、(中国の挑発など)南シナ海における予想外の事態を警戒し、備えている」と伝えた。

 インドネシアは、南シナ海周辺の他の東南アジア諸国との協力も強化している。昨年9月、フィリピンと海洋安全保障強化のための防衛協力協定に署名した。両国はテロ対応や国境管理など安全保障分野はもちろん、エネルギー・海上開発・教育・保健などの分野で5カ年計画を立て、協力を強化することとした。マレーシアおよびブルネイとは、今年上半期中にナトゥナ諸島付近の海域で合同軍事訓練を行う。またインドネシア軍は、米国・日本・オーストラリア・インド間の多国籍安全保障協議体「クアッド(Quad)」との共同軍事訓練も推進している。香港のサウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)紙は「フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾などはこれまで中国の九段線に強く反発してきた」と伝えた。

 中国側は強く反発している。中国政府は、今回のインドネシア・ベトナムEEZ協定妥結について「南シナ海の海洋境界確定交渉は中国の正当な利益を損なってはならない」と表明した。中国南海研究院の呉士存院長はSCMP紙に「地域的反発が大きくなれば、中国は海軍や沿岸警備隊など海上抑止力を強化する可能性が高い」と語った。

 だが中国も、安易にインドネシアを無視はできない状況だ。インドネシアの人口は2億7300万人に達する上、フィリピン(1億1400万人)、ベトナム(9700万人)、タイ(7200万人)と連帯する可能性もあるからだ。他方でインドネシアもまた、最大の貿易相手国である中国との関係は重要だ。

 実際、中国は昨年末、沿岸警備隊所属の大型艦をナトゥナ諸島付近に送り込んだといわれている。シンガポール国防戦略研究所(IDSS)のコリン・コー(Collin Koh)リサーチフェローは「(回帰不能点の象徴である)ルビコン川は渡らずに不快感を表する、中国政府の威力の誇示」と指摘した。

イ・ヒョンテク記者

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