【写真】韓国国内の米軍基地に配備されていたパトリオットミサイル/朝鮮日報DB

 国家保安法違反の疑いで韓国国家情報院の捜査を受けている全国民主労働組合総連盟(民主労総)の組織局長A氏(53)が在韓米軍司令部があるキャンプ・ハンフリーズ(京畿道平沢市)と烏山空軍基地(同烏山市)を撮影し、北朝鮮の工作員に報告した疑いがあることが29日までに分かった。

 A氏は米軍基地などに配備された対北朝鮮用ミサイル防衛兵器であるパトリオットの砲台をはじめ、米空軍偵察機の離着陸場面、格納庫、燃料タンクなど軍事機密施設と軍事活動の様子を撮影したという。北朝鮮はA氏ら民主労総の現職・元幹部に「青瓦台など国家の主要統治機構の送電網体系に関する資料を入手し、それを麻痺(まひ)させる準備作業に着手せよ」という指令も下したとされる。

 本紙の取材を総合すると、国家情報院と警察は27日、民主労総の組織局長A氏、保健医療労組組織室長のB氏(48)、元金属労組副委員長のC氏(55)、元金属労組組織部長D氏(52)ら4人の民主労総現職・元幹部に対する勾留尋問でそうした容疑を明らかにした。国家情報院と警察は1月18日、A氏ら被疑者4人の住居地・事務室などを捜索し、100件を超える北朝鮮との通信文書を発見した。国家情報院は勾留尋問で、被疑者らが撮影して北朝鮮に報告したパトリオットの砲台など軍事機密の写真数十枚を担当判事に直接見せ、プレゼンテーションを行ったという。

 水原地裁は同日、「証拠隠滅および逃走の恐れがある」などとし、被疑者4人全員の勾留を認めた。勾留状には北朝鮮の指令によるスパイ活動をしたとして、国家保安法上の目的遂行スパイ容疑が明記された。そのほか、金品授受、特殊潜入脱出、鼓舞称賛、会合・通信、便宜供与の容疑も適用された。今年摘発された事件でスパイ罪が適用された令状が発行されたのは初めてだ。

 国家情報院と警察などによれば、A氏は2020年か21年にかけ数回にわたり、平沢・烏山基地に配置されたパトリオット砲台、最新攻撃型ヘリコプターをはじめ基地内の燃料タンク、滑走路などを撮影し、21年6月に北朝鮮に報告した疑いが持たれている。A氏は当時、米軍基地に建設中の弾薬庫、偵察作戦のために離着陸する米空軍偵察機の写真も数十枚撮ったという。

 A氏はそうした写真を暗号化プログラムを使って北朝鮮に報告したという。保安部門関係者は「在韓米軍の滑走路、燃料タンク、弾薬庫は北朝鮮が韓国へのミサイル攻撃時に一番先に攻撃するターゲットだ」とし「具体的な攻撃座標を把握するために北朝鮮が地下組織員であるA氏に米軍基地偵察任務を命令したと推定される」と話した。国家情報院関係者は「北朝鮮との通信文書を解読・分析する過程で、国家保安法上の目的遂行スパイ、自主支援、特殊潜入・脱出、会合、便宜提供など主な犯罪事実を立証できる証拠を相当部分確保した」と述べた。

 A氏が米偵察機の動きを把握し、北朝鮮に報告していた点も注目される。北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は先月、「敵偵察機が飛んでいない時に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を奇襲発射した」とし、米偵察機の動向をリアルタイムで把握しているかのような発言を行った。これに対し、韓米軍事当局がスパイ調査を行った経緯がある。A氏の活動は金与正氏の発言以前だが、北朝鮮がこれまで韓国に送り込んだスパイを通じ、韓米の軍事活動情報を継続的に入手していたこと判明した格好だ。

 国家情報院は北朝鮮がA氏らに青瓦台の送電網を麻痺させるよう指示したことも確認したという。北朝鮮は21年2月に「青瓦台をはじめとする主な統治機構の送電網体系資料を入手し、それを麻痺させるための準備作業をせよ」と指令した。これは地下組織である「革命組織(RO)」の総責任者である統合進歩党の李石基(イ・ソッキ)元議員が戦争勃発時、韓国国内の通信、燃料、鉄道、ガスなど国家基幹インフラを攻撃する案を議論した活動と似ている。李元議員は一連の罪と内乱陰謀罪で有罪判決が確定した。

 国家情報院は今回、北朝鮮との通信文書の解読を通じ、北朝鮮と容疑者が使用する隠語の一部も明らかにした。北朝鮮は指令文で民主労総内部の地下組織を「知事」、地下組織の総責任者であるA氏を「支社長」、B氏を江原支社長、C氏を「支社第2チーム長」と呼んでいた。

 国家情報院は容疑者らの令状交付の背景について異例のコメントを出し、「民主労総の中心幹部が関与した重要事件について、一部が『スパイ団でっち上げ』『従北決め付け』などと中傷し、世論を欺いている」とし、「彼らの犯罪事実には、国家機密の探知・収集と国家基幹インフラの麻痺など公共の安全に差し迫った脅威となりうる内容もあり、国民の知る権利を保障する意味でメディアに令状交付の事実を公開した」と説明した。その上で「国家情報院と警察は容疑者らを関連法に基づく手続きに従い、拘束、捜査し、犯罪事実の全貌を究明する」とした。

盧錫祚(ノ・ソクチョ)記者

ホーム TOP