▲写真=NEWSIS

 「馬兄」という愛称と共に中国政府・国民から熱い歓待を受けた、テスラ社CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が中国で見せた動きは、あまたの話題を生んだ。米国と中国の関係をシャム双生児(体の一部がくっついた状態で生まれた双子)になぞらえて中国を持ち上げたかと思えば、中国最大のバッテリーメーカーCATLの曽初から最後まで一貫して、米国の政策基調とは合わない言行を続けた。

 イーロン・マスク氏がしばしば取る突出行動だとするには、その始まりが釈然としない。今年、コロナ封鎖令が解かれるや、すぐさまアップル、インテル、ゼネラルモーターズ(GM)、スターバックスなど米国の巨大企業のトップが中国を訪れた。イーロン・マスク氏と同じ時期に中国を訪れた「ウォール街の皇帝」JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)は「中国に害を及ぼしてはならない」と語った。グラフィック半導体世界トップの企業、NVIDIAのCEOで、6月に訪中する予定のジェン・スン・ファン氏も「中国を過小評価してはならない」と、米国政府に対する警告のようなメッセージを発信した。

 ところが、米国政界の反応は奇妙だ。実業家らの相次ぐ訪中について、特に言及はしていない。国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官が5月31日、「こうした訪問が経済的競争を処理する上で助けになるかどうかは見守らなければならない」と、多少留保的な評を下したにとどまる。企業の事情を知らないわけでもないのに、与党・野党と問わずこの件については「なかったこと」のように目を向けることなくやり過ごすつもりなのだ。

 対中貿易制裁で損害を被っているのは米国企業だけではない。同盟国の企業もつらさを堪え、「泣きながらからしを食らう」ような思いで米国主導の経済安全保障体制に加わり、中国からの過酷な報復に耐えている。米国の政治家は、同盟国には、わずかな隙が生じただけでも厳しくむちを振るう。5月21日、中国が米国の半導体企業マイクロンの製品を自国市場から退出させると表明すると、そのすぐ2日後の5月23日に、マイク・ギャラガー下院議員(米中戦略競争特別委委員長)が韓国を挙げて「われわれの同盟国がマイクロンの空席を埋めるのは阻止せねばならない」と発言し、公に韓国企業を圧迫したのがその代表例だ。

 大衆的な人気と強大な力を享受している米国巨大企業に触れるより、相手にしやすい同盟国をたたいて政治的立場とメッセージを強固にしよう-というのが、ごく自然な政治の生理だというのは理解できる。しかし米国は、単に利益の観点からにとどまらない「価値の同盟」を掲げて同盟国を対中制裁に参加させてきた。肝心の米国内から、実質的な損益を問い詰める不満が出てくると、口を閉ざして知らぬふりをするというのはひきょうだ。米国企業が今のように、自分たちの利益のために独自の路線を展開し続け、米国政府がこれを放置するのであれば、同盟国が完全に米国を信用して付いていくことができるだろうか。

リュ・ジェミン記者

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