サムスンが過去10年余り、最も頭を痛めたのが支配構造の改善であり、それはまだ進行途上だ。他の大企業にも似たような循環出資構造があるが、政界や一部市民団体は唯一サムスンに対してだけ執拗(しつよう)に支配構造の改善を求めてきた。フィンテック時代に逆行する古い「金産分離」(金融資本と産業資本の分離)の原則を掲げ、サムスン電子の大株主であるサムスン生命の議決権を制限したのに続き、事実上サムスングループを解体するよう求める保険業法改正案まで数多くの規制法案を繰り出した。経営難の企業でもなく、税金が投入されているわけでもないのに、特定企業の支配構造に政界が介入する世界でも例がない事態が続いている。

 故・李健熙(イ・ゴンヒ)会長が生前、脱法的な相続に対する謝罪として、自分と子女の財産8000億ウォン(約760億円)を寄付したが、知らんぷりだった。サムスンの新旧経営陣が半導体、スマートフォン、テレビというIT(情報技術)の3大中核事業を世界トップに押し上げた産業史に長く刻まれる業績も、政治勢力が湯水のように使えるように10兆ウォンを超える法人税を毎年納めていることも情状酌量の要因にはならなかった。

 強力なオーナーシップに基づき、中核事業を育成してきたサムスンの成長史が否定され、サムスンの経営陣が政治権力にたたかれるのを避けようと戦々恐々とする間、サムスンと韓国社会が失ったものは非常に多い。今の経営陣にはつらい話だが、サムスンは過去10年間、特許が満了したバイオ医薬品を受託生産するバイオ事業を除き、これといった新事業を立ち上げることができなかった。データと人工知能(AI)、クラウドサービスなどコロナ以降に世界をリードするアンタクト(非対面)分野では中国にかなり遅れ、自動運転車や電気自動車向けバッテリーのような未来産業でも半導体とスマートフォンに肩を並べるような成果を上げられずにいる。

 一方、企業の成長潜在力をそぐ配当は天文学的に増えている。サムスン電子の過去3年間の配当は約29兆ウォンで、昨年全国の世帯に最大100万ウォンを支給した政府の災難支援金の2倍に達する。国内で絶えず攻撃を受けている状況で、サムスン電子の株式の半数以上を保有する海外投資家の配当要求を無視することができないからだ。企業ハンターにとっては、自国で歓迎されず、潤沢な資金があるサムスン電子ほど格好の標的はないはずだ。海外の投資家の間では、サムスン電子を分割し、米ナスダックに上場すべきだという声も上がっている。

 サムスンが崔順実(チェ・スンシル)氏による国政介入事件に関与したことも根本的には支配構造改善の過程で起きた惨事だ。サムスンが支配構造を単純化するため、系列企業を再編する過程にも、小学生が宿題のチェックを受けるようにいちいち政府の許しが必要で、政治権力はサムスンの経営権を奪おうとばかりに事あるごとに介入した。こうした現実にあって、誰が大統領の要求に逆らうことができようか。士農工商の国で政治権力の一言のせいで破滅に追い込まれた例は枚挙にいとまがない。

 ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクのような実業家が韓国で生まれていれば、今のようなアマゾンやテスラは存在できただろうか。不倫男のジェブ・ベゾスには法人税を払うのを惜しみ、アマゾンの利益をわざと減らした疑惑が浮上。社会性不足に薬物依存症も患うイーロン・マスクは株価操作、粉飾決算などの物議が絶えない。しかし、米国人は2人の小さな過ちよりも彼らが成し遂げた成果と未来に喜んで拍手を送る。ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクならば、韓国で起業するぐらいなら、むしろ宇宙船で火星に行って事業をやると言いそうだ。

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