「10キログラム入りの大きな袋の天日塩はありませんか?」(スーパー利用客)

 「大容量の塩はありません。いつ入荷するかも分かりません」(店員)

 13日午後7時ごろ、ソウル市麻浦区のある食料品スーパーの入り口でやり取りされた会話だ。50代の女性店員は「テレビのニュースで日本の原発汚染水が放出されると伝えられたから、おとといから大袋入りの天日塩を買い求める人が増え始め、すぐに売り切れた」と言った。天日塩とは海水を加熱処理せず、太陽の日差しのみで乾燥させて作った塩のことだ。

【写真】塩は品切れ、水産物コーナーは閑古鳥

 「CLien(クリアン)」「82 cook(クック)」など熱狂的な共に民主党支持者が集まるインターネット・コミュニティー・サイトで連日繰り広げられている「日本の汚染水に備え天日塩を買いだめせよ」という投稿が、実際の市場で天日塩品薄現象を招いている。一部のショッピング・サイトでは天日塩に「汚染水放出対策」というシールまで貼って売っている。

 ショッピング・サイト「11番街」によると、同サイトの最近6日間(6-12日)の天日塩の売上は前年同期比で14倍も増加したという。同じ期間、「SSGドットコム」では天日塩を含むすべての塩製品の売上が6倍増え、「Gマーケット」でも3倍近く増えたとのことだ。

 韓国最大の天日塩の産地、全羅南道新安郡の飛禽農協関係者はあるメディアとのインタビューで、「注文が2カ月分滞っている。一日に注文が2000件近く入ってくるので、宅配業者が対応しきれない状況だ」と語った。新安郡水産業協同組合では殺到する注文をさばくため、アルバイトまで雇っている。

 このような状況は大型スーパーの実店舗にまで広がっている。ある大型スーパーの関係者は「昨日と今日(12日と13日)は天日塩の売上が突然、2倍以上も跳ね上がり、一部店舗では品不足だとの報告が入っている」「状況を注視している」と語った。業界関係者は「福島原発汚染水に対する恐怖が広がったための現象だとみられる」と言った。

 日本は今月中に原発汚染水放出設備の工事を終え、国際原子力機関(IAEA)から特に指摘がなければ、今夏から処理された汚染水を海に放出する計画だ。汚染水のうち、核物質である「トリチウム(三重水素)」の予想放出量は年間22テラベクレル(TBq)前後だ。これは中国が西海(黄海)など自国の近海に毎年放出するトリチウム(1054テラベクレル)の48分の1に相当する。しかも、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2021年4月、鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官=当時=は国会で「IAEAの基準に合う手続きに従うなら、日本の汚染水放出には反対しない」と述べている。

 それにもかかわらず、韓国で突然、このような天日塩品薄騒動が起こっている背景には、極端な「陣営論理」があると指摘されている。

 共に民主党ソウル市党は先月10日、各地方区あての公文書で、「党代表の指示事項として、福島汚染水に反対する横断幕の掲示数の報告を受ける」と通達した。それ以降、ソウル市内のあちこちに横断幕が掲げられているが、これには「福島汚染水放出 食卓で 塩の心配 どうしよう」という横断幕もあった。

 すると、「CLien」「82 cook」など共に民主党を支持する傾向が強いコミュニティー・サイトで反響を呼び始めた。当初、8日ごろは「塩くらいは備えておくべきかな」「汚染水を放出する前に塩を買おうと思うんだけど…」などの書き込みが主だったが、最近は「天日塩20キログラムを5袋買いました」「MBCニュースを見てすぐ天日塩20キログラム購入しましたよ」などの投稿が掲載されている。

 品薄現象が現実になると、「汚染水怪談」を信じていない消費者も塩の買いだめに加わっている。この日、ソウル市城東区のある大型スーパーで5キログラム入りの天日塩を購入した主婦(67)は「海水というのは世界中を回るものだ。本当にそんなに危険ならよその国が黙っているだろうか」と言いながらも、「放射能が怖いからではなく、買いだめのために起こる値上げが怖くて私も買いに来た」と言った。

張祥鎮(チャン・サンジン)記者

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