▲6月8日、ソウル市城北区の中国大使公邸において、李在明・共に民主党代表を招待した席で15分間にわたり準備済みの原稿を読みつつ、訓示するかのように韓国政府の政策を巡って批判するケイ海明・駐韓中国大使。/写真=国会写真記者団

 19世紀の欧州で外交官制度が生まれて以来、主権国家が外国に派遣する常駐外交使節のことを特命全権大使と呼ぶ。その名も大層な特命全権大使という肩書は「派遣国の国家元首の特命を受け、国家元首に代わって全権を行使する権限が付与された人物」を意味する。国家間で条約を締結する際に署名者として参加する人物は、自分が国家元首の代理として条約文に署名する全権を持っていることを立証する証明書を相手国に提出しなければならないが、これを全権委任状という。しかしその国に常駐する特命全権大使は、別途の全権委任状がなくとも、いつでも国家元首を代理して交渉を行い、署名をする権限を保有するものと見なされた。

 こうした特命全権大使制度が生まれた理由は、当時の原始的な通信環境のせいだった。当時も、伝書バトや電信といった比較的高速の通信手段がありはしたが、秘密事項を国家元首に報告して指示を受けるためには、やむを得ずメッセンジャーが文書を持って直接本国へ通わなければならなかったので、1回の交信に数週間もの時間を要した。当時は、本国の重要な国内外情勢も、数週間後に配達される自国の新聞を受け取って初めて知っていた時代だった。だから効率的な外交交渉のためには、国家元首から交渉権限を一括委任されて活動する特命全権大使の存在が必要だった。このように特命と全権を受けて派遣された大使は、本国政府の指示や承認を長期間受けられない状況において、自らの判断と決心に基づき任務を遂行した。

 しかし通信手段が高度に発達したこんにちにおいては、特命も全権も消えて久しく、特命全権大使という呼称は過去の時代の栄光を想起させる儀礼的な呼称に過ぎない。こんにち、大小の外交的判断と決定はほとんど本国政府が行い、大使や外交官らは指示された脚本に基づいて動く「俳優」となり、その役割は大幅に縮小された。大使は、重大な外交事案からさまつな行政事案に至るまで時々刻々本国政府の指示と承認を受けて活動し、重要な事案であればあるほど、ますますその傾向は強い。外交交渉や国際会議で使用される事案ごとの立場は、ほとんど本国政府が事前に作成して示達し、ことさら重要な会議や交渉の場合にあっては現地の状況が本国政府にリアルタイムで報告され、本国政府の指示も会談場にリアルタイムで伝達される。

 少し前、ケイ海明・駐韓中国大使が韓国野党の代表と会談した席で韓国政府と韓国国民に対する脅迫的な見解を公に朗読し、これに対する強い非難世論で国が騒がしかった。旧韓末に植民地総督のごとく振る舞い、ありとあらゆる横暴に及んだ清国代表・袁世凱とケイ大使を比較し、「好ましからざる人物(ペルソナ・ノン・グラータ)」として追放しよう、という主張もかなりあった。しかし、袁世凱とケイ海明のケースは全く異なるものだ。こんにち、海外駐在大使が本国政府の指示や事前許可もなしに、あのような問題のある発言を公に行うのは不可能だ。もし韓国大使が政府の許可なくあのような騒動を起こしたら、本国召還は免れないだろう。しかも、高度に統制された共産国家・中国の大使が、北京当局の指示なしにあんなことをやるというのは想像もできない。

 従って、この事件で非難され、謝罪して再発防止を約束すべき主体はケイ海明大使個人ではなく、その裏であのような外交ショーを企画し、指示した中国政府と外交当局になるのは当然だろう。そうすることで、韓国を中国の属邦くらいに軽く考えて宗主国のように振る舞ってきた中国政府の長年の慣行を本から断つことが必要だ。この問題に関するあらゆる責めをケイ海明大使に負わせて終結処理するやり方の方が、外交的には多少楽で、後の災いについての負担も少ないだろう。ただし、そんな弥縫(びほう)策で適当にこの事案にふたをしてしまったら、これからも類似の事件が繰り返されることは避けられないだろう。

 韓国に対する中国の外交的な挙動がこのように圧迫と脅し一辺倒で展開しているのは、中国政府だけの責任ではない。韓国政府がこれまで自ら、自国を「大国の前の小国」と称し、中国の不当な言行に対して一貫して屈従と沈黙を保ってきたことによる、当然の帰結だ。眼前の政治的・経済的利益故に、あるいは安美経中(安全保障は美国=米国、経済は中国)の幻想に惑わされ、中国の無理な横暴を自ら合理化して沈黙してきた韓国政界・経済界も、その責任から自由ではあり得ない。今、中国経済が徐々に沈んでいき、対中貿易黒字も幕を降ろしているだけに、韓国の国民各界が志を一つにして、これまでの歪曲(わいきょく)された韓中関係を全面リセットする勇気を発揮すべき時が来ている

李容濬(イ・ヨンジュン)世宗研究所理事長・元外交部北核大使

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