▲写真=UTOIMAGE

 「一言で表現すると、博物館ですね」

 米国の元財務長官、ローレンス・サマーズ氏の欧州に対する評価は、短いが辛口だ。およそ10年前、国際カンファレンスに出席するため韓国を訪れたサマーズ元財務長官は、当時の全光宇(チョン・グァンウ)国民年金公団理事長とグローバル経済の展望について語り合った際、このような診断を下した。ギリシャとローマ、大英帝国など、過去の華やかな時代に先祖が残した遺産と遺物で食べていく「博物館」のような存在ではないかというのだ。欧州は今や、世界を引っ張る活力と革新を見いだせない、生気を失った存在だと一喝した。数年前にこの話を聞いたが、欧州に関する限り、これほど洞察力のある直観はないと思う。

 欧州諸国がため息をつきながら「ああ、昔であれば」を繰り返す例は多いが、「ドイツが病人と化した」という最近のニュースは本当にショックだった。経済が停滞することはあり得るにしても、病人レベルだとは想像もしなかった。欧州では、南欧のポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインが、その頭文字を取って「欧州のブタ(PIGS)」とののしられるほどに厄介な存在だった。ところが、欧州最大の経済大国であるドイツが最悪の経済難に見舞われ、さらに今年は経済がマイナス成長に陥るだろうという見込みまで出ている。ドイツも闘病の事実を認めた。オラフ・ショルツ首相は今年8月末、大規模な法人税減免パッケージ法案を打ち出し「ドイツ経済は病気になった」と白状した。

 筆者が子どものころ、ドイツ(当時は西ドイツ)は韓国人がぜひとも手本にしてついて行くべき国だった。第2次大戦の敗戦国であるあの国の人々は、たばこを吸うときも幾人か集まり、1本のマッチでめいめいのたばこに火をつけると聞いた。正直で、勤勉節約し、科学と技術、産業を発展させ、「ライン川の奇跡」を起こしたとされていた。「漢江の奇跡」を夢見る韓国人のロールモデルで、経済発展分野の「兄貴」のような存在だった。

 欧州は、米国と比較すると「相対的に」貧しく、その格差はますます広がっている。30年前の時点で、ドイツ・英国・フランスなど欧州5大国の国内総生産(GDP)の合計は米国のGDPを上回っていたが、今では全米50州のうち上位9州のGDPを合わせただけで欧州5大国を追い越す。ドイツの罹病は、米国と共に西欧文明の二つの大きな軸を成していた欧州の寂しい身の上を示す代表的な自画像だ。

 「国が病にかかった」という表現の元祖は英国だ。大戦後、世界初の福祉国の実現に乗り出した英国は、過度の福祉と高コスト・低効率で苦しんだ末に破綻の瀬戸際まで追い込まれた。その原因について、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のジョージ・アレン名誉教授が出した分析の一つに、ひときわ視線が引き付けられた。彼は著書『The British disease(英国病)』で「トインビーが語ったごとく、『歴史は、一つの挑戦に成功裏に対応し得たグループが次の挑戦にも成功裏に対応し得たケースがほとんどない』ことを示す」と記した。その上で、長期間の成功の上に「開拓者(大英帝国)の子孫」は安住した、と指摘した。

 こうした観点から、「ドイツ病」の発病は、英国病とそっくりだ。過去の成功モデルや成果に酔って革新と変化を遠ざけた。米国と中国が電気自動車の開発を先導している間、ドイツはガソリン・軽油を使う内燃機関自動車に執着した。ドイツの産業は競争力を失い、市場から退けられていった。

 欧州の先進国の苦難を見ていて、韓国はこうした前轍(ぜんてつ)を避けることができるだろうかと心配になった。既に前兆となる症状は見えている。世界の主要先進諸国は、1人当たりの国民所得が3万ドルに達した後、ほんの数年で4万ドルを突破した。米国は7年、日本と英国はそれぞれ3年、2年しかかからなかった。韓国は2017年に1人当たりの国民所得3万ドル時代を開いたが、その後、所得増加は足踏み状態だ。今のままでは、いつ4万ドルになるのかはっきりしない。昨年の時点で韓国の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中33位だった。韓国はこれまでうまくやってきた。しかし革新と改革の側に足を踏み出さず、現実に安住するようになったのかもしれず、これまでの成功が恐ろしく思える。

張一鉉(チャン・イルヒョン)記者

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