▲保健福祉部のチョ・ギュホン長官(左から3番目)が19日午後、世宗市の政府世宗庁舎で必須医療革新戦略を発表している。/聯合ニュース

 必須医療に関する約20年前の記事を読むと、最近の報道内容と大差がない。当時から、専攻医(レジデント)募集でいわゆる「内外産小(内科・外科・産婦人科・小児青少年科)」などの必須診療科目の志願者数が減り始め、「皮眼整(皮膚科・眼科・整形外科)」などの科目が人気を集めているという記事が見受けられる。

 理由も今と変わらない。産婦人科などは低出生現象を皮切りに収入が減り、医療事故へのリスクなど業務負担が加重している一方で、皮膚科・整形外科などは働きやすく高収益が保障されるためだという。必須医療に対する危機が突然訪れたのではなく、かなり前から論じられていたというわけだ。

 福祉部(日本の省庁に相当)は、医療関係者の需給政策、健康保険報酬(医療サービス価格)政策など、さまざまな政策手段を有している。医学部の定員拡大は何度か試みたものの、医師たちがストライキにより大きな障壁を築き上げたため困難だったとしよう。20年前も今も医師の主張の中心は、医師の人数ではなく、医師の配分なのであって、まずは必須医療の報酬を現実化し、医療事故の負担を緩和してほしいというものだった。

 もちろん、福祉部がこれまで黙っていたわけではない。保健福祉部の報道資料コーナーで「必須医療」と検索すれば、2015年以降だけで50件近く必須医療問題に対応してきた内容がヒットする。ところが、報酬を現実に合わせて果敢に見直さず、専攻医の修練補助手当てを50万ウォン(約5万5000円)、100万ウォン(約11万円)といった具合に小出しにして上げてきたのが対策のほとんどであったことが分かる。その結果が「小児科オープンラン(営業開始時間前に列に並ぶこと)」「救急室のたらい回し」「医療上京」のような結果として現れたのだ。言葉にすると実に単純だが、一つ一つに国民たちの困難と国民の生命に関する危険性が表現されている。

 何も報酬を上げなかったわけではない。福祉部が昨年7月に発表した保健医療人材実態調査の結果によると、医師の年平均収入は2億3070万ウォン(約2540万円)で、過去10年間の保健医療職種の中で最も早い速度(年平均5.2%)で増加した。このような医師たちの収入は基準によって多少異なるが、購買力平価(PPP)の為替レート基準ではOECD(経済協力開発機構)で最高水準だ。OECD主要国では医師の収入が看護師の2、3倍だが、韓国は5倍以上となっていることも参考になる。福祉部が報酬交渉で医師に振り回され、医師全体の収益は大幅に増加したものの、いざ国民に必要な必須医療は目も当てられない水準にまで追いやってしまったのを、これほどまでに端的に物語っている数値もない。このような条件が、医学部入試ブームに影響を及ぼしたという点は言うまでもないだろう。

 米国では、必須医療に携わる医師に対しては、経済的補償がしっかりと整っている。心臓手術や脳手術を受け持つ医師は、年俸が10億ウォン(約1億1000万円)前後、心血管手術を受け持っている医師は7億-8億ウォン(約7700万-8800万円)で、一般内科医(約3億ウォン=約3300万円)の2-3倍だという。技術を要する手術を担当する医師に対してはその価値を認め補償が伴うため、自然と専攻医が集まる仕組みとなっている。韓国もいち早くこうした構造に向かっていくべきだったのではないか。

 これまで福祉部の報酬調節政策がある程度であっても作動していたら、必須医療分野は引き上げ、報酬が必要以上に高い分野は抑える政策を着実に展開していたら、今ごろはどうなっていただろうか。必須医療に携わる医師たちがこれ以上はもうできないということも、医師が医学部の定員拡大に反対する名分も、著しく減ったに違いない。保健福祉部のチョ・ギュホン長官は最近になって「福祉部がいち早く取り組むことができる医療報酬から見直す」と述べた。それほど自信を持ってできると言える内容を、なぜ20年にもわたって怠ってきたのか理解に苦しむ。これに対し、福祉部から自省の声が一切上がってこないのも問題と思われる。

キム・ミンチョル論説委員

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