▲朴裕河教授が10月26日、ソウル市瑞草区の大法院前で著書『帝国の慰安婦』で日本軍慰安婦被害者を「売春」などと表現したことに関連して無罪判決を受けた後、心境をコメントしているところ。/写真=ナム・ガンホ記者

 日本のジャーナリスト、土井敏邦が日本軍慰安婦被害者の姜徳景(カン・ドクキョン)の一生を追った本『"記憶"と生きる』には、非常に議論となりやすい部分が登場する。富山の軍事工場を逃げ出した自分を捕まえて強姦(ごうかん)した後、軍の慰安所に連れていった「コバヤシ憲兵」についての姜徳景の証言だ。「コバヤシ」は15歳の少女を地獄の穴へ投げ入れた悪魔だが、「ときどき握り飯や乾パンを持ってきてくれて、舟遊びにも連れていってくれた人だった」と姜徳景は回顧した。「コバヤシにだけあんなことをされたのであれば、慰安婦だと申告はしなかった」だろうとも言った。

 加害者に向けた憎悪と愛着の共存に、著者は犯罪の専門家らの言葉を引用した。殴られている妻が夫から逃げられず頼りながら生きていくように、物理的・心理的監禁状態にあった慰安婦たちは、生殺与奪の権を握る日本軍がささいな慈悲を施すとき、過度の愛着と感謝の気持ちを持つのだ。

 『帝国の慰安婦』を書いた朴裕河(パク・ユハ)教授の解釈は異なる。教授は、姜徳景さんのような朝鮮人慰安婦たちが日本の軍人に感じた感情は「恋」または「同志愛」でもあり得るとし、論争を呼んだ。皇国臣民として愛国者の役割も担わなければならなかった朝鮮人慰安婦にとっては、日本兵との同志的関係が矜持(きょうじ)となり、生きていく力になり、日本兵を看護し、愛し、共に笑った記憶を隠蔽(いんぺい)することは彼女らをもう一度奴隷にすることだと述べた。

 私は、朴裕河の問題的著書『帝国の慰安婦』が司法の対象になってはならないと考えるが、教授の本には慰安婦被害者らを怒らせるに十分な理由があることに同意する。1日数十人の兵士を相手にしなければ生きていけなかった女性たちに「同志愛」という言葉はどれほど残忍か。これは、女性暴力に対する無知にして、被害者ではなく「帝国の視角」から慰安婦を見つめる「人間に対する無理解」だ。

 日本の国家的責任の有無を決定する二つの要素、「強制連行」と「慰安所の売春的性格」についても、朴教授は、女性を直接連行した主体は抱え主(身売りする女性の面倒を見てやる主人)や業者であって、日本軍だったケースは少なく、国家的責任を問うのは難しいと主張する。「売春的強姦」というあいまいな用語を通して、売春を目的とした朝鮮人慰安婦も少なくなかったと強調する。

 しかし、軍慰安婦制度は、それが強制連行であろうと詐欺であろうと、性暴力であろうと性売買であろうと、日本兵と恋をしていようがいまいが、国家の組織である軍隊が女性に加えた明白な暴力だ。軍当局と行政機関の庇護と黙認なしに慰安婦の動員は不可能だったというのは、日本の研究者らも同意しているところだ。朴裕河が主な根拠にしている千田夏光の『従軍慰安婦』すら「軍の命令によって戦場へ連れていかれ、第一線将兵らの性欲処理欲求に利用されていた女性」と慰安婦を定義する。『帝国の慰安婦』と同時期に出版された、尹明淑(ユン・ミョンスク)の日本での博士学位論文に基づいた『朝鮮人軍慰安婦と日本軍慰安所制度』にもこれを裏付ける資料と証言がぎっしり詰まっている。

 もちろん『帝国の慰安婦』は、過度の民族主義を背負って慰安婦談論を独占し、日本政府に強硬一辺倒で対応してきた挺(てい)対協(正義連)の運動方式を正面から批判したという点で意義がある。日本政府がなぜあれほど法的賠償の責任を拒否しているのかも詳細に明らかにした。

 問題は、朴教授が「慰安婦被害のハルモニ(おばあさん)たちのために書いた」というこの本が、安倍政権と日本の極右の論理を正当化する上で寄与したという点だ。韓国国内からも「売春が誇りなのか」「偽慰安婦をえぐり出せ」という侮辱と蔑視が降り注ぎ、左派と正義連はこれを反日扇動に利用した。朴教授は「左右どちらも私の本を誤読した」と言ったが、誰のための和解なのか、誤読してしまうような文章を書いたのは著者の責任だ。

 金学順(キム・ハクスン)ハルモニの最初の証言から30年が経過したが、日本軍慰安婦被害者問題の解決ははるか遠いものに見える。一次的な責任は正義連の独走を傍観した韓国政府にある。朴槿恵(パク・クンヘ)政権が安倍政権と紆余(うよ)曲折の末に妥結した合意すら、文在寅(ムン・ジェイン)政権が紙切れにした後では、一歩も前進していない。「芸をするのはクマ、金をもらうのは胡人」という李容洙(イ・ヨンス)の憤怒のように、韓日両国間の交渉でも、正義連や韓国知識人社会でも、ハルモニたちは常に疎外された。

 今からでも、その声を聞かねばならない。日本政府の介入はなかったという主張に怒って慰安婦被害の申告をした姜徳景は「日本政府が真相を明かしてくれるのであれば、賠償を受け取れなくても関係ない」という言葉を残して世を去った。大邱で会った李容洙ハルモニは「お金が目当てなわけではなく、死ぬ前に心のこもった謝罪を受けたい」と涙を流した。

 結局、外交で解決しなければならない。日本の首相が頭を下げてハルモニたちの手を取ることが、その第一歩だ。それができるのは大統領と韓国政府だけだ。

金潤徳(キム・ユンドク)先任記者

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