▲イラスト=UTOIMAGE

 グーグルやマイクロソフトなど世界的企業のCEO(最高経営責任者)には共通点がある。インド人であるという事実だ。14億人のインド人の中で有名な人材は国立インド工科大学に進む。世界で初めて月の南極に探査船を送り、太陽観測用の人工衛星を打ち上げる底力は、まさにインド工科大学にあると言っても過言ではない。

 インド工科大学は毎年2850万人の高校生のうち、卒業試験で上位25%に入った者だけが入学試験を受けることができ、最終的には1万6000人だけが全国にある23のキャンパスに入学できる。インド工科大学の入試競争率は、韓国の医学部での入試競争率とは比べ物にならないほど熾烈(しれつ)だ。彼らは卒業後、世界有数のIT企業に採用されたり起業したりして、世界的な起業家に成長。富と名誉を獲得する成功神話を歩んでいる。よってインドの子どもたちの切なる夢は、インド工科大学に入学してエンジニアになることだ。シリコンバレーがある米国でも、マサチューセッツ工科大学(MIT)をはじめとする世界的な工科大に優秀な人材を集め、エンジニアを育成している。

 では、韓国はどうだろうか。「医学部偏向」という用語は、韓国の苦々しい理工系学部の現実を物語っている。「医・歯・韓・薬・数」に代弁される高校卒業生の成績順位による大学進学は、理工系学部の競争力低下につながっている。教育現場では基礎学力が低下し、学生たちの学力水準が過去に比べて全般的に低くなっているという意見が多い。

 医学部への偏向現象に学齢人口の減少、韓国政府によるR&D(研究開発)予算の削減まで重なり、理工系学部の受難は激しさを増している。日増しに疲弊する理工系学部の教育現場で、工学部教授としてのもどかしさと切なさを禁じ得ない。韓国政府が自信を持って進めてきた半導体関連学科の活性化政策にもかかわらず、半導体関連学科の学部生が中途退学する割合が2021年の4.9%から22年には8.1%へと2倍近くに増えた。これは何も学部に限った現象ではない。工科大学一般大学院では定員を満たせない大学が増えており、大学院課程に入学した修士・博士課程の学生たちも中途退学するケースが増えている。就職を保証する学科まで学生たちが離脱したため、大学だけでなく技術者を確保しなければならない企業の立場も安泰とは言えない。事業を拡大して投資をしようにも、これを後押しできる人材が不足し、現場の混乱は加重するばかりだ。

 最先端科学技術を巡る競争力が国家の競争力となっている状況で、このまま行けば数年以内に韓国の国家競争力が低下することは明白だ。すでに韓国の潜在成長率が先進国の中でも最低といった見通しが国内外で提示されている。

 理工系専攻者に対するさまざまな支援を講じなければならない時を迎えている。韓国が発展途上国から先進国に進入できた背景には、政府による大胆な科学技術成長政策と理工系研究人材の育成のための積極的な支援があった。入試および教育政策から社会的認識の変化まで多くの努力が後押しされなければならない。まず、エンジニア上がりの人材を高位官僚として特別採用することを提案する。政府の政策を決定する高官に理工系出身の研究者を特別採用することで、企業や大学など現場の立場が反映された政策を樹立しなければならない。国家戦略に必要な技術分野の人材と企業に対し、税制優遇など画期的な支援策を提供する必要性がある。あるいは、小・中学校の生徒を対象とした科学キャンプなどのプログラムを拡大することも考慮に値する。幼い頃からさまざまな科学技術分野に触れる機会を提供しつつ、理工系分野への進路選択と進学を誘導していくことも必要だ。

 月に行きたいという欲望が、われわれの人生において必要不可欠な科学技術を発明する機会となった。マスクは火星に居住する夢を見て、その目標に向け疾走している。インドの大学の研究室では、世界的な起業家を夢見て、今も徹夜で研究している。韓国の若い青年たちはどれくらい夢を見ているだろうか。韓国社会の古い枠組みにとらわれて、青年たちが特定の職業群に傾く現象を見守ることは、われわれの未来を諦めるのと何ら変わらない。

慶北大学ホン・ウォンファ総長

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