▲米国の著名な作家でインフルエンサーのマーク・マンソンは「韓国のうつ病」について調べるため韓国を訪問した。/ユーチューブ

 「世界で最も憂鬱(ゆううつ)な国を旅行した」。「その『決断』がすべてを解決する」で知られる米国のベストセラー作家、マーク・マンソンが22日に自らのユーチューブに掲載した動画のタイトルだ。大韓民国は大きく発展したが、韓国人は常に不安を感じ、憂鬱で、自殺率も非常に高い。

 マンソンによると、これは間違った文化の問題だという。韓国は儒教的集団主義のあしき習性である過度な羞恥心が支配し、他人を過大に判断し評価しながら家族主義と社会的親密度は薄い。これらは資本主義においても同じだ。韓国は派手な物質主義の影響を受けており、金もうけに没頭しているが、自己表現や個人主義は抑圧されている。儒教と資本主義の強みを生かせず、そのあしき部分だけが残る国になったのだ。

 この短く冷静な「1行の要約」はネットで公開されるとたちまち数十万のアクセスを記録し、大きな反響を呼び起こした。かつての日本による過酷な植民統治の後、韓国戦争と極度の貧困を経て過度な競争により最大の成果を出すしかなかった社会の雰囲気が定着し、それが韓国人を憂鬱にしてしまった。この論理は先週末「朝鮮日報」をはじめとする複数のメディアが紹介し、ユーチューブ以外でも大きな注目を集めた。

 実に興味深い話だが、一つ問題がある。それはこの指摘が事実でないという点だ。2021年の時点で韓国の自殺率は人口10万人当たり24.1人で、経済協力開発機構(OECD)加盟国で1位だった。10万人当たり18.5人のリトアニアに大差をつける圧倒的な1位だ。これは韓国特有のストレスと文化的な圧力が原因だろうか。そうではない。1位の韓国、2位のリトアニア、3位のスロベニアはいずれも高齢者貧困率が高く、それだけ高齢者の自殺率も高い。19年と20年の高齢者自殺率1位は韓国、2位スロベニア、3位リトアニアだった。統計的相関関係があまりに明確だ。

 OECD1位の自殺率は基本的に「高齢者の貧困問題」が原因だ。もちろん最近は若者の自殺率も急速に高まっており、メンタルヘルスの悪化も深刻な問題になっている。ただし「韓国の自殺問題」というテーマを語るときに、熾烈(しれつ)な入試競争や子供たちを苦しめる教育などに重点を置いてはならない。それは頭がかゆい時に足の裏をかくようなものだ。

 マンソンの動画を紹介したメディアの記事、さらにそのコメントやネットでの反応を見ると興味深い点が浮かび上がってくる。若い人たち、とりわけ女性たちが儒教的な発想に基づいて他人の目を気にして他人と比較しながら、同時に資本主義的な虚勢を張っているため、結果として出産率が一気に落ち込んだという指摘が多いことだ。しかしマンソンは少子化には言及していないし、韓国の少子化を「儒教と資本主義のあしき結合」とあえて説明する必要もない。

 OECD加盟国で合計特殊出生率が1.3を下回る国は韓国、イタリア、ギリシャの3カ国だ。イタリアとギリシャは儒教が原因で少子化となった国ではない。原因は文化ではなく社会と経済の仕組みだ。作家のチョ・グィドンは「イタリアに向かう道」で「韓国とイタリアが最下位になった理由はいずれも労働市場の二重構造、大企業の正規職中心の福祉、女性の経済活動参加率の低さと男性の育児不参加などの問題を抱えている点にある」と指摘した。

 私はマンソンの見方そのものを批判するためにこの記事を書いているのではない。マンソンは「それでも韓国人が持つ回復に向けた弾力性を信じる」という好意的な言葉で動画を締めくくったが、私はその善意の言葉を疑っていない。世界的ベストセラー作家が韓国の問題に関心を持ちコメントしているが、これはわれわれを自分自身に目を向けさせる点でありがたいことだ。

 しかしわれわれが自分たちの問題をそのような形で理解するようでは困る。韓国の問題は儒教が原因でもないし、また資本主義が原因でもない。その核心を一つ挙げるとすれば、「正規職コース」で定年を迎えられない限り、貧困老人に転落しやすい労働市場の二重構造、そしてその中で自らの立ち位置ばかりを追求する既得権勢力だ。貧しい高齢者が保守政党に投票することをばかにし、恨み節を言う高学歴中産階層を団結させる利己心が問題ということだ。

 われわれは問題の原因をすでに理解しているが、解決に必要な苦痛からただ顔を背けたいだけだ。今の状態がこのまま続くと本当の改革は始めることさえ難しくなる。国の消滅を回避し、未来を開拓するには苦痛を伴う改革に取り組まねばならない。「断言するが、苦痛を克服する唯一の道は、苦痛に耐える方法を学ぶことだ」というマンソンの言葉が思い起こされる。

ノ・ジョンテ経済社会研究院専門委員・哲学

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