▲イラスト=ユ・ヒョンホ

 あるミニ政党が示した綱領の一つに多くの人が衝撃を受けた。内容がおかしいわけではない。「大学入試をはじめ、公務員や公共機関職員などさまざまな選抜過程で地域別、所得別機会均等選抜制を拡大する」というこの聞こえの良い文句が嘲笑を浴びたのは、綱領を示した政党が曺国(チョ・グク)元ソウル大教授が旗揚げした祖国革新党であるためだ。ここまで来ればうんざりしても当然だ。法務部長官に指名された曺氏を検証する過程で、その家族の醜悪な実体が明らかになったのは4年7カ月前の2019年8月だ。正常な人物ならばすぐに長官職を退いただろうが、曺氏は何の過ちもないと持ちこたえ、共に民主党は「家族全員を一家断絶の状況にまで追い詰めている」と検察を非難した。支持者らは検察庁舎前で「曺国を守ろう」「検察改革」を叫んだ。

 いわゆる「曺国問題」の発端となったその当時、人々は「裁判所で有罪判決が出れば、曺国問題は終結するだろう」と考えていた。 2020年12月、曺氏の妻チョン・ギョンシム氏に一審で懲役4年を言い渡された。娘と息子の入試不正に関与したほか、インサイダー情報を利用して株式を購入するなど資本市場法に違反し、証拠隠滅を指示したという起訴事実が全て有罪とされたのだ。さらに、曺氏側は証人として出廷した人々を「政治的目的のために虚偽の主張を行った」とまで非難したが、一審は判決文で「真実を語る人々に精神的苦痛を加えた」と曺氏を批判した。しかし、曺国問題は終わっていない。曺氏とその支持者が従来の主張を曲げなかったからだ。それは二審と大法院での公判を通じ、チョン氏の懲役4年が確定した後も同じだった。

 人々は考えた。「チョン氏に続き曺氏も有罪となれば、曺国問題は終わるだろう」と。2023年2月、一審は入試不正、および働きかけに応じて監察を中断させた職権乱用の疑惑を有罪と認定し、曺氏に懲役2年を言い渡した。判決文は「過ちを認めず反省もしていない」と曺氏を批判した。今年2月の二審でも量刑は変わらなかった。大法院は事実関係を争う場ではなく、判決に影響を与えた法律の正当性を検討することになるため、曺氏の有罪判決は既に確定したも同然だ。それでも曺国問題は終わっていない。曺氏とその支持者が依然として、不満を訴えたためだ。

 ところが、不満の訴え方は全く異なる。第一に、何の過ちもなかったと言っていた過去とは異なり、今は「私だけ汚れているのか」と他人にかみついた。曺氏は「(与党国民の力の)韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長の娘さんの場合は、私の娘と違い、さまざまな疑惑、論文代筆、海外エッセイ代筆などがあったが、すべて嫌疑なしになった」と言ったが、それはとんでもない責任逃れだ。成績が悪くて偽造までしなければならなかった曺氏の娘、チョ・ミン氏とは異なり、韓東勲氏の娘は松島国際学校で内申満点、米国の大学入試基礎学力テストでも満点を取り、マサチューセッツ工科大学(MIT)に合格したのだから。チョ・ミン氏の論文は高校生レベルでいくらでも書ける引用論文だったし、米国の名門大の入試に使えるものでもなかった。

 韓東勲氏の娘に関しては、代筆疑惑でまともに明らかになった事実はない。ベンソンという名前のケニア人が「自分が書いた」と主張したが、ハンギョレの取材要請に対し、ベンソン氏は「謝礼をくれれば取材に応じる」と話した。ハンギョレはその言葉で取材を中断した。ハンギョレはカネがないからそうしたのだろうか。そうかもしれないが、ハンギョレが韓東勲法務部長官(当時)を引きずり下ろすために必死だった点を考えると、ベンソン氏が信頼できる情報源だとは思えずに取材をやめた確率が高い。まともな報道機関ならば、自分たちが取材できていない部分を記事にしてはならない。ところが、ハンギョレはベンソン氏の主張をそのまま記事化し、左派は代筆疑惑が事実であるかのようにそれを拡大再生産した。いくら司法試験に合格していなくても、曺氏はそれを偽造書類を大学に提出して業務妨害罪に問われたチョ・ミン氏と同レベルの話だと考えているのだろうか。

 第二に、過去に韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相や金慶洙(キム・ギョンス)元慶尚南道知事がそうであったように、曺氏も現実の外に存在する「真実の法廷」を求め始めた。「法律的な弁明が受け入れられなければ、非法律的な方式の名誉回復に乗り出す」という言葉がまさにそれだ。 今回の総選挙で国会議員に当選すれば、自分の無罪が立証されるに等しいという論理だ。寛大な判事が「逃走の恐れがない」として、収監を認めなかったおかげで、曺氏は結局新党を結党することができ、選管の解釈を経て、自分の名前と同音の「祖国」を党名に入れた。多数の政党が乱立する比例投票で、祖国党を目立たせるためだった。党のシンボルカラーを「トゥルーブルー」に決めたが、曺氏はそれが光州の空を意味すると言い張ることで、自分に好意的な湖南(全羅道地域)に秋波を送った。

 曺氏は結党大会で「この5年間、無間地獄の中に閉じ込められていた」と述べた。しかし、人々が記憶する曺氏の過去5年は「絶えることがないSNS投稿」「講義もせずに給料をもらうソウル大学教授」「ブックコンサートを装ったカネ集め」「突拍子もない懸垂」などだ。そんなことが無間地獄ならば、地獄もそれなりに暮らしていけるところなのではないかと思う。政治のために必要なのはまさにカネ。だから曺氏は支持者らに後援金は多ければ多いほどいいから支援してくれと訴える。曺氏は持てる者だ。2019年に家族の財産として56億ウォン(約6億3000万円)を申告したが、うち34億ウォンが現金だったほどだ。

 にもかかわらず、彼は貪欲さに溢れている。2019年7月26日、民情首席秘書官を退任するとすぐにソウル大にファックスで復職申請書を提出した曺氏は、法務部長官指名まで15日分の給与を受け取り、同年10月14日に法務部長官を辞めるや否や、再びファックスで復職申請書を出し、その月の給与を受け取った。甚だしくはソウル大に移る前、蔚山大と東国大で二重に給与を受け取ったこともある。それだけではない。30万部以上売れた「曺国の時間」をはじめ、本を4冊出したほか、ブックコンサートでカネをかき集めた。そうかと思えば、チョン・ギョンシム氏は2億4000万ウォンに達する領置金(刑務所内で日用品の購入などに使用できる資金)を集めただけでは足りず、「私は一人で悲しみます」とかいう本を出した。チョ・ミン氏はユーチューブで収益を上げるだけでなく、「きょうも前進中です」とかいう本を出した。曺氏の支持者らがカネがなくて首が回らないと言っても、それでも政治をやりたいと言ってカネを集めるというのだから、曺氏の支持者こそ無間地獄に閉じ込められているのではなかろうか。

 祖国党の結党大会で曺氏は「同志の皆様にお尋ねします。大韓民国の行く手を阻んでいる邪魔物は曺国ですか」と尋ねた。支持者らは「尹錫悦(ユン・ソンニョル)」と叫んだが、一人の正常な人間としてこの質問に答えたい。「いや、それはまさにあなただ」と。

ソ・ミン檀国大寄生虫学科教授

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