▲イラスト=UTOIMAGE

 台湾の賴清徳総統の就任式に韓国政府は代表団や使節団を派遣しなかった。米国はポンペオ元国務長官やアーミテージ元国務副長官など長官・次官経験者からなる代表団を派遣し、オーストラリア、カナダ、日本、欧州連合(EU)など西側諸国はどこもそれなりの人物からなる代表団を台北に派遣した。就任式に参加した国は合計51カ国で、これは台湾と国交のある12カ国の4倍以上だ。これらの国々は当然祝賀メッセージも送ったが、ソウルからは何のメッセージもなかった。

 これまで尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は外国首脳の就任式には必ず代表団を派遣した。尹大統領就任1年目のフィリピンを皮切りに、コロンビア、ケニア、ブラジル、ナイジェリア、パラグアイに加え、今年1月にはグアテマラにも代表団を送った。団長は権性東(クォン・ソンドン)、鄭鎮碩(チョン・ジンソク)、元喜竜(ウォン・ヒリョン)など有力政治家が務めた。地球の反対側の国にまで温かいメッセージを送っている韓国政府だが、韓国にとって6位の貿易相手ですぐ近くにある台湾には何のメッセージも送らなかった。これについて韓国外交部(省に相当)は「慣例に従った」としか説明していない。これまで通り中国の機嫌を損なわないためということだ。台湾は尹大統領の就任式にも招かれなかった。

 台湾は1949年1月、当時新たな独立国家だった大韓民国を最初に承認し、直ちに貿易も開始した。北朝鮮が南浸したのは翌1950年6月で、その際国連安保理は国連軍を韓国に派遣する決議案を採択した。当時の安保理常任理事国は米国、英国、フランス、中華民国(台湾)、ソ連だった。ソ連が採決に参加しなかったことも天運だが、台湾がその場にいなければ今の大韓民国は存在しなかったかもしれない。

 このような過去の因縁はさておき、台湾は韓国と自由民主主義、人権、市場経済などの価値を共有する国だ。外交用語では「like-minded group(志を同じくするグループ)」と呼ばれており、現在50カ国ほどに上る。よく使う言葉では「自由民主主義陣営」だ。その陣営はどこも台湾総統の就任式に代表団を派遣したが、韓国だけは派遣しなかった。台湾は非常に残念に思ったはずだし、他の国々も意外だっただろう。昨年と一昨年の国連総会第3委員会で新疆ウイグル自治区の人権侵害を批判する声明が出された時もそうだった。当時この声明には50-51カ国が参加したが、韓国は声明に加わらなかった。いずれも現政権発足後のことだ。

 同じようなケースは実は思った以上に何度も繰り返されている。2週間前にモスクワではプーチン大統領の5期目の就任式が執り行われ、クレムリンのロシア大統領府は事前に各国大使らに招待状を送っていた。しかし自由民主主義陣営、つまり「志を同じくするグループ」の多くは就任式に参加しなかった。この就任式は、隣国を侵略し政敵を殺害する独裁者の永久執権を祝う場と見なされたことに加え、ウクライナ国民との連帯の意味も込められていたからだ。ところが韓国政府の考え方は違っており、李度勲(イ・ドフン)駐ロシア大使を出席させたのだ。フランス大使も出席していたため、恥ずかしさは多少和らげられたかもしれない。

 今は任期前半の単線的な外交を細かく整えるプロセスかもしれないが、本当にそうなら幸いだ。台湾総統就任式の1週間前に北京では韓中外相会談が開かれ、その場で中国は「台湾問題については慎重に取り扱うことを希望する」と要求してきた。中国を説得し、今月中に韓中日首脳会議を実現させたい韓国政府にとって聞き流すのは困難な要求だった。またつい先日ロシアもウラジオストクで活動していた韓国人宣教師をスパイ容疑で拘禁した。中国を恐れる「恐中症」と「ロシア・フォビア(恐怖症)」は韓国外交にとって根深い病だ。

 権威主義国家やその政権を相手にする際、重要なことは「志を同じくするグループ」と同じ言葉を発信し、同じ行動を取ることだ。韓国は国連安保理の非常任理事国であると同時に、「グローバル中枢国家」を自認しているが、だとすれば安保理をないがしろにしているプーチン大統領の戴冠式で拍手を送り、台湾総統の就任式から顔を背けるべきではない。これにより一時的には中国とロシアの機嫌を取ることはできるだろうが、最終的には韓国外交にとって毒になるだろう。9年前に朴槿恵(パク・クンヘ)大統領(当時)は天安門の上で中国の戦勝記念軍事パレードに出席した。自由民主主義陣営の国はどこも参加をボイコットしたイベントだ。これに対する中国からの見返りは無慈悲なTHAAD(高高度防衛ミサイル)報復だった。このように高い授業料を払っても同じ過ちを繰り返しているようでは、「外交知能」に問題があると言わざるを得ない。

李竜洙(イ・ヨンス)論説委員

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