▲グラフィック=ペク・ヒョンソン

 中国の人工知能(AI)モデル「ディープシーク(DeepSeek)」がユーザー情報を中国のSNS(交流サイト)・ティックトックの親会社「バイトダンス」に流出させていた事実が確認された。韓国の個人情報保護委員会は17日「ディープシーク・ユーザーの情報がバイトダンスに流出した事実を確認した」とした上で「個人情報保護法上、ディープシークの対応が不十分であることを認め、15日からアプリの新規ダウンロードを中止した」と明らかにした。国の次元でディープシーク・アプリのダウンロードが全面的に遮断される事例は先月末のイタリアに続き韓国が2例目だ。韓国でディープシーク・アプリ禁止が報じられた直後、中国外交部(省に相当)の郭嘉昆・報道官は定例ブリーフィングで「中国政府は一貫して中国企業に現地の法律を厳格に守るよう求めてきた」「関連国(韓国)が経済・貿易・科学・技術面での問題を安全保障と関連づけたり政治問題化したりしないよう求める」とコメントした。

【グラフィック】ディープシークの個人情報流出疑惑と主要国の反応

 ディープシークは安い投資で高性能AIを開発し、これが報じられると世界のIT業界に大きな衝撃が走った。ところがこのディープシークについてはユーザーのキーボード入力の癖など、過度な情報収集が明らかになり問題となった。ディープシーク・アプリの1週間のユーザー数は121万人(1月末時点)でチャットGPTの493万人に次いで多い。

 個人情報保護委員会はディープシークがインターネットにアクセスした記録を確認する過程で情報流出を確認した。ディープシークがバイトダンスにいかなる情報をどれほどの量、またなぜ流出させたかは確認されていない。韓国では個人情報保護法で第三者に情報を提供する際にはその方法と目的を具体的に公表し、同意を得ることを義務づけている。しかしディープシークはこれを守ってこなかった。個人情報保護委員会は「第三者に情報を提供するときは情報提供者の同意を得なければならず、どんな情報をなぜ収集し、いつまで保有するかを伝えねばならない。ところがディープシークの個人情報保護方針や利用約款にはこれらの内容が記載されていなかった」と指摘した。

 ディープシークのセキュリティーが問題となったのは今回が初めてではない。米ABCテレビによると、カナダのサイバーセキュリティー会社Feroot Securityがディープシークのコードを分析したところ、中国国営通信社のチャイナ・モバイルにユーザー情報を流出させる機能が仕込まれていた。ディープシークはユーザーのキーボード入力の癖まで把握しており、またユーザーには個人情報の提供を拒否する権限がない。

■ディープシークはキーボード入力のパターンまで全て把握し中国企業に提供

 ディープシークが先月最新のAIモデル(R1)の販売を開始した直後、個人情報保護委員会はディープシークの個人情報保護方針や利用者約款などを確認し、サービス利用時に転送されるデータ、トラフィック(アクセス量)などの技術分析を行った。その過程で個人情報保護委員会は「ティックトック」を運営する中国のバイトダンスにディープシーク・ユーザーの情報が流出している事実を確認した。問題を把握した個人情報保護委員会はディープシーク側にアプリの提供中断を要求し、ディープシークは今月15日にこれを受け入れ韓国でディープシーク・アプリのダウンロードは無期限で全面禁止となった。個人情報保護委員会の崔壮赫(チェ・ジャンヒョク)副委員長は「韓国の個人情報保護法に基づき、改善や補完が確認されればサービスは再開されるだろう」とコメントした。

■ディープシークが集めた個人情報は中国企業に

 個人情報保護委員会が確認したディープシークのセキュリティー上の問題は大きく二つある。個人情報保護法によると、第三者にユーザーの個人情報を提供する場合は本人の同意を得た上で、どの情報をどれくらいの期間保管するかを明確にする必要がある。ところがディープシークはこれを守っていなかった。

 さらに大きな問題は、中国の巨大IT企業であるバイトダンスにディープシーク・ユーザーの個人情報が流出していることだ。韓国個人情報保護委員会の関係者は「プロキシサーバー(インターネット中継サーバー)で通信記録を分析したところ、ユーザーがディープシークにアクセスすればディープシークはもちろん、バイトダンスにもユーザー情報が流出していた」「具体的にどんな情報が流出したか、なぜバイトダンスとつながっているかなどは今後の調査で確認できるだろう」と説明した。

 個人情報保護委員会はディープシークに個人情報保護方針の見直しなどを要求した上で、追加の実態調査を始めた。ディープシークが修正に応じない場合、個人情報保護委員会は課徴金や過料、修正命令などを出すことができる。調査結果は早ければ1-2カ月以内には出る見通しだ。

 新規のダウンロードは中断となったが、以前からのユーザーやパソコンなどを通じたウェブサイトへのアクセスは今も可能なため、セキュリティーを巡る問題は今も解消されていない。個人情報保護委員会のナム・ソク調査調整局長は「過去にアプリをダウンロードした場合はこれを強制的に削除させることはできない。インターネットからの遮断も簡単ではない」「実態調査の過程で個人情報保護法など法令を順守しているか確認し、その結果を発表する際に対策を公表したい」と述べた。個人情報保護委員会はユーザーにディープシークの利用を控えるよう呼びかけている。

■中国に情報が悪用される恐れも

 これまでディープシークはユーザーの個人情報を無差別収集し、これを利用してきたとの指摘を受けてきた。ディープシークはユーザーの生年月日、氏名、電子メールアドレス、IPアドレスなどの個人情報はもちろん、ユーザーが入力した文字、音声、写真、ファイルなどのデータも集めてきた。これはチャットGPTやジェミニ(Gemini)などのAIも収集している。人間がスマートフォンのキーボードで文字を入力する際には入力のスピードやリズムは全て異なるが、これを集めて分析すれば個人を特定でき、場合によってはパスワードの推測にも使われる恐れがある。批判の高まりを受けディープシークは今月14日にユーザーのキーボード入力パターンなど一部の情報収集を中止すると発表した。

 ディープシークは他のAIモデルとは違い、ユーザーに情報収集拒否の権限(オプトアウト)を認めていない。またユーザー情報を全て中国国内のサーバーに保管し、広告目的などで第三者に情報を提供できるとする条項もある。サイバーセキュリティー会社「Feroot Security」がディープシークのコードを分析したところ、ディープシークにはユーザー情報を中国の国営通信社に転送するコードが仕組まれていることを確認したという。

 現在中国ではデータセキュリティー法により、政府が国の安全保障を理由に企業にデータを要求した場合は直ちに提供しなければならない。そのため中国がユーザー情報を悪用する可能性は高いとみられている。

 ディープシークはこれらの懸念を理由に欧州で「(国内ユーザーの)個人データについては、法律で認める範囲内でのみ使用する」という追加の約款を加えた。ただし収集した情報を中国のサーバーに保管するとの条項はそのまま維持され、データ利用拒否を認める条項は設けなかった。

ユン・ジンホ記者

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