寄稿
韓国民主主義の危機が中国の一党独裁を強化する【寄稿】
韓国では8年ぶりに大統領が罷免され、3年ぶりに大統領選が行われる。内乱終息、体制戦争、世代交代など各党の有力候補が叫ぶ壮大なスローガンは陳腐で空虚だ。任期5年の大統領制国家で拙速な飛び石大統領選を行う国がほかにあるだろうか。憲政の正常軌道から国が逸脱したのは誰の責任か。 風車に飛び込んだドン・キホーテのように反国家勢力を撲滅すると言い、荒唐無稽な戒厳令を敷いた大統領一人の責任なのか。数十件の違憲的な官僚弾劾でも物足りず、大統領権限代行の権限代行まで弾劾すると言い、議会を暴走させ続けた巨大野党の責任なのか。
政界で生死に関わる重大の決断の責任は十中八九双方にある。国家非常事態を共につくり上げた「怪物」のような両党が、互いに再び大統領の座をつかもうと必死な状況は奇妙だ。まるで三流作家が手抜きをして書いた政治ドラマのようだ。世界12位の経済大国、5位の軍事強国、韓流ブームを生んだ文化強国がなぜこんな無益な政治闘争に国力と時間を浪費しているのか。人の過ちよりも法の誤りを問題視する政治学者は、口を開けば改憲を叫ぶが、憲法を改正して制度を巧妙に組み直したところで、政界の旧態と悪習が一掃されるはずはない。
毎回こんな事態が起きるのは、憲法そのものが間違っているからではなく、憲法を誤読して悪用する政治商人と利権がのさばっているからだ。国の主権者として国民の重大義務は、大切な参政権を慎重に行使し、古い勢力を政界から締め出すことだ。彼らが口にする自己弁明にだまされ、彼らが吐き出すポピュリズムに惑わされるならば、国民主権を実現する選挙民主主義の大義が崩れる。
世界が韓国の選択に注目している。東アジアでは韓国、日本、台湾だけが自由な選挙民主主義を実現してきたが、日本は敗戦後、米軍政の支配下で自由民主主義を移植されたケースであり、台湾は自ら民主化を成し遂げたにもかかわらず、国家の地位を承認されていない状態だ。韓国だけが国民の自発的な政治参加で民主化を成し遂げ、平和的な政権交代に成功した自他共に認める自由で民主的な独立国家だ。そんな見かけによらず、韓国の民主主義が慢性病を患ってきたことも否定できない。
1987年以来、大統領選のたびに、有権者はどこでまた突発的な不確定要素が生じるか分からず、最後まで気をもまなければならなかった。3党合党、DJP連合、大統領選前日の一本化決裂など奇想天外な戦術と予測不可能な権謀術数が絶えなかった。500万票差で勝った「実用」政権(李明博=イ・ミョンバク=政権)は、就任100日目に狂牛病騒動でグロッキー状態に追い込まれ、51.6%の得票で権力の座に就いた最初の女性大統領(朴槿恵=パク・クンヘ=氏)は、群衆デモで惨めに追い出され、20年の長期政権を豪語し、積弊清算の刃を振り回したろうそく政権(文在寅=ムン・ジェイン=政権)は、失政を繰り返し、政権維持に失敗した。
弾劾政局の後、拙速に繰り広げられる今回の大統領選挙も混濁の極みだ。次期政権を誰が握っても、果たして政治的破局を避けることができるだろうか。韓国で政治的大混乱が起こるたびに、中国共産党は機敏にそれを体制宣伝に利用する。
中国の官営メディアに映った韓国政治は、無法が罷り通る衆愚政治と鋭い政治報復の連続だ。中国の学者は、韓国が米国式民主主義を真似して危機に陥ったと主張する。中国のネットユーザーは「韓国政界の泥沼の争いを楽しみながら、世界で最も危険な職業は韓国大統領だ」とあざ笑う。三権分立を批判し、一党独裁を称賛する中国共産党は、韓国が政治混乱で奈落の底に落ちることを望んでいる。
韓国式民主主義が危機に直面すれば、中国式の一党独裁の理念的基盤が強化されるという東アジアの国際情勢の皮肉だ。まさにそういう意味で、韓国大統領選は内政にとどまらず、世界レベルのドミノ効果を生む。緊迫した再編が進む国際情勢の中で、今回の韓国大統領選には全体主義勢力に対抗し、東アジア自由民主主義の最後の砦を守る全人類的意義がある。国内外のあらゆる状況を考慮すると、今回の大統領選の時代精神は政治革新と憲政確立だ。
無寛容と非妥協という泥仕合の政治形態を改めなければ、民主的憲政秩序が確立することはできない。民主的憲政秩序の確立なしには、韓国の民主主義は持続不可能だ。韓国民主主義の没落は、東アジア全域の政治的後退を招く。時には賢明な有権者の慎重な投票が、下からの政治革命を開始することもある。政治を革新し、憲政を確立しよう。
宋在倫(ソン・ジェユン)カナダ・マクマスター大教授(歴史学)