▲グラフィック=パク・サンフン

 「大家好(中国語でこんにちは)。請跟我来(私についてきてください)!」

 先月25日午後2時、仁川国際空港第1旅客ターミナルの駐車場で、スーツケースを持って建物から出てきた8人の観光客に、40代の中国人男性が腰を90度折っておじぎをした。8人は数年ぶりに韓国を訪れた游客(中国人団体観光客)だった。中国人男性は11人乗りの黒いワゴン車のトランクに荷物を積み、周囲を確認すると、慌てたように車に乗り込んで走り去った。車はナンバープレートに「ホ」というハングル文字が書かれたレンタカーだった。運送営業が許可されていない違法車両だ。

【写真】中国人団体客を乗せる違法タクシー「黒車」

 夏の休暇シーズンを迎え、大型ワゴンタイプのレンタカーで空港から高額で外国人団体観光客を乗せる「違法コールバン(違法ワゴンタクシー、白タク)」が猛威を振るっている。特に最近では、中国国籍の違法なドライバーたちが急速に増えている。中国では違法改造のバイクや自家用車による無許可営業のタクシーを「黒車(ヘイチャ)」(無登録の違法車両という意味)と呼ぶが、この「黒車」が韓国にも上陸したのだ。今年3月に韓国政府は、今年第3四半期(7-9月期)から年末まで中国人観光客に対するビザなし入国を一時的に認めると発表したが、これをきっかけに「游客特需」を狙う違法営業が増加しているのだ。

 タクシーとして登録されていないレンタカーに客を乗せて料金を受け取る行為は違法だ。これらの違法なワゴンタクシーは、合法のワゴンタクシーと同じ11人乗りのスターリア、15人乗りのソラティ(共に現代自動車)などをレンタカー会社から借りて営業しているため、見分けるのは容易でない。ただし、営業するためには国土交通部(省に相当)の許可を受けた上で合法タクシーであることを証明する黄色のナンバープレートを付けなければならないが、違法なタクシーはどれも白いナンバープレートを付けている。

 本紙は先月末から最近まで、韓国人が運転する合法のワゴンタクシーに乗り、仁川空港周辺で違法営業をしている中国人ドライバーを追ってみた。先月20日午後3時、仁川国際空港から1.5キロの所にある国際業務団地では、どの路地にも「白いナンバープレートのワゴン」(無許可のワゴンタクシー)が連なって停車していた。至る所で中国語の話し声が聞こえていた。

 路地でたばこを吸っていた中国人の男性に「中国の観光客を乗せているのか」と尋ねると、首を横に振った。しかし、ほどなくして電話が鳴り、男性は空港に向かっていった。車を追ったところ、空港の建物の方に入っていき、直後に中国人観光客9人をワゴンに乗せて走り出した。仁川空港ワゴンタクシー協同組合のイ・ドンウォン理事長は「中国人ドライバーたちは取り締まりを避けて空港近くで待機し、中国から飛んでくる飛行機の到着時間に合わせて空港に集まり観光客を乗せていく」と話した。

 中国の違法ドライバーたちにとってなじみの行き先は、中国人団体観光客がよく訪れるソウル市内の明洞や東大門・南山・乙支路などだ。この日午前10時、東大門歴史公園(ソウル市中区)近くにあるビジネスホテルの前には違法ワゴンタクシーがひっきりなしにやって来て中国人観光客を降ろしていった。南山ケーブルカーの公営駐車場の近くには、至る所に「有償による運送行為の集中取り締まり」と書かれた垂れ幕が掲げられていたが、中国人ドライバーたちは全く気にしていない様子だった。

 仁川空港内の合法なワゴンタクシーは乗車人数に関係なく、1回の乗車につきソウルの麻浦区弘大エリアまで7万4000ウォン(約7800円)、中区の明洞・乙支路・南山までは8万ウォン、江南区狎鴎亭までは8万6000ウォンとなっている。ワゴンタクシー協会が地域ごとの運賃を定めて提案し、それを国土交通部が審査・承認する仕組みだ。しかし、中国人の違法ドライバーや、その違法ドライバーたちに仕事をあっせんする旅行会社は、最大で正規料金の3-4倍の運賃を受け取っていることが確認された。中国の旅行会社が「仁川空港からソウル市中心部までの送迎サービス」として自社ホームページに掲載している運賃は、20万-30万ウォンに達していた。

 中国人の団体観光客は、ホテルに加えて空港と市内を往復する交通手段まで含まれた「パッケージ商品」を選ぶため、自分たちが乗る車が違法ワゴンタクシーなのか、価格が異常に高いかどうかなど、分からないケースがほとんどだ。ソウル地域のある警察官は「取り締まりをすると、中国人観光客たちは『違法と分かっていたら乗らなかった』と話す」とした上で「中国語が通じて楽だからという理由で、高額なのを承知で違法ワゴンタクシーを利用したという人もいる」と話した。

 中国発の「黒車」のドライバーが増える中、正式に登録した合法ワゴンタクシーを運行する韓国人ドライバーたちは「ついにワゴンタクシーの営業まで中国人に奪われ始めた」と嘆く。ワゴンタクシーのドライバーになって10年目だというキム・ナムシクさん(50)は「中国人を客として乗せたのがいつだったか、しばらく乗せていないから思い出せないほどだ」「これから中国人観光客がさらに増えたとしても、中国の違法タクシーが全部奪っていくだろう」と話した。

 しかし、警察の取り締まりは日に日に困難になっている。旅行の前にウェブサイト上で予約が行われる上に、中国のメッセンジャーアプリ「微信(ウィーチャット)」などでドライバーと観光客が直接連絡を取り合っており、違法運行の現場をキャッチするのが難しいからだ。仁川警察庁は今年4月から先月30日まで、違法ワゴンタクシーに対する特別取り締まりを実施した。仁川警察庁の関係者は「現場で取り締まっても『友人を迎えに来た』『旅行会社のガイドだ』と言われると、それ以上の捜査は難しかった」と話した。イ・スンギ弁護士は「違法で営業している車は乗客用の保険が適用されず、事故が起きた場合にも被害の立証や補償の請求が難しい」と説明した。

キム・ドギュン記者

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