▲尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領は7月9日、ソウル中央地裁で逮捕状請求に伴う被疑者尋問を受けるために出廷した/写真共同取材団

 「特別検事が意図的に侮辱感を与えている。『好ましからぬ選択』を行うよう誘導しているようだ。いくら地位の低い人物でも、こうして追い詰められると、『好ましからぬ選択』をするものだ」

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領は最近、ソウル拘置所で弁護士らにそう話したという。同じ日に他の拘置所に収監されていた金建希(キム・ゴンヒ)夫人も「自分が死んだら夫を助けることができるだろうか」という言葉を残した。身柄が収監されている間、疑惑が明らかになり、部下が続々と口を開いているので、そんな心情になったのだろう。だが、死にまで言及したと聞いて、どうも穏やかではいられない。

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 特別検事による侮辱的な捜査が度を越えている。3件の特別検事(内乱、金建希夫人、殉職海兵)に捜査員だけで600人余りが投入されている。次々と出頭を求められ、休む間もなく家宅捜索、逮捕、拘留の令状請求がなされる。捜査範囲は3年余りの大統領任期だけではない。結婚前の配偶者の行動も掘り起こされ、義弟の妻の実家まで捜索を受けた。親しくしていた知人たちも呼び出しを食らう。

 弁護士を通じて悔しさを訴えても、今度は弁護士が捜査妨害の疑いを受ける。強制的に取り調べ室に座らせようとして、尹前大統領が拘置所で下着姿のまま抵抗する姿を映像に収め、メディアに流そうとする。約10人がかりで椅子に座ったまま、尹前大統領を引きずりだそうとして負傷する場面もあった。手段を問わず追い込んでいるところだ。

 それは尹前大統領の検事時代の捜査方式と大差ない。2017年末、ソウル中央地検長を務めていた尹前大統領は特殊活動費上納事件とコメント工作捜査妨害事件の捜査で国家情報院に切り込んでいた。同院職員や派遣検事を相次いで取り調べて逮捕した。その過程で捜査を受けた現職検事が自ら命を絶ち衝撃を与えた。自殺した検事は生前「尹錫悦がこんなだとは思わなかった」と悔しがっていたという。国家情報院元幹部は「事前の打ち合わせに基づき捜索しておいて、4年後にそこを『犯罪現場』にされた」と話した。彼の説明はこうだ。

 国家情報院は院長室どころか、数十あるオフィスに看板が一つもない。 保安施設なので「1110」「1210」「1310」といった数字だけが書かれており、すぐ隣のオフィスでどの部署がどんな仕事をしているのかも分からない構造だ。そのため、検察が裁判所から令状を交付されても、国家情報院の協力なしには現実的に捜索が不可能だ。2013年の「国情院コメント工作事件」捜査班長を務めた検事・尹錫悦は「君たちが案内するオフィスに行って君たちが準備した資料だけを押収する」と申し合わせた。死亡した検事は当時、国家情報院に法律諮問官として派遣されており、同院側の当事者だった。

 4年後、朴槿恵(パク・クンヘ)政権に対する「積弊清算」の指揮官になった尹錫悦氏は「国家情報院が検察の捜索に備えて偽のオフィスをつくり、偽の書類を持ってきた」として捜査妨害疑惑を提起した。国家情報院職員に慰労の電話をかけたことを「捜査妨害のための懐柔」と決めつけ、小学生の子どもたちが見ている前で家宅捜索を行った。後日、事件関係者は全員が捜査妨害で有罪となり、処罰を受けたが、一様に無念がった。法廷では「おそらく死ぬまで自分の罪を認めることはできないだろう」と語る人物もいた。

 被疑者も国民も納得し難い見せかけの「政治捜査」の悪循環であり限界が来ている。尹前大統領は警察、検察、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)に続き、特別検事まで動員された捜査を大部分拒否する態度を貫いてきた。積極的に防御権を行使したものだが、公正と常識、法と原則を信じて尹氏を大統領に選んだ支持者の多くがそれを恥ずかしく思った。極端な獄中メッセージで感情に訴えるのではなく、法曹人、政治家らしく法的手続きを尊重し、捜査に臨む姿を期待したい。被疑者・尹錫悦が検事・尹錫悦に対するように堂々としてもらいたい。それが国民のために最後まで守るべき最小限の原則だ。

チェ・ジェフン記者

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