社説
10年→5年→7年→9年 選挙のたびに工期変更、加徳島新空港に巣食うポピュリズム政治【11月22日付社説】
「加徳島新空港」の敷地造成工事について、韓国政府は工事期間を84カ月(7年)から106カ月に延長し、年内にあらためて入札を行うと発表した。現代建設は今年5月に同事業からの撤退を発表した際「加徳島新空港建設工事を安全に進めるには108カ月(9年)は必要」との見通しを示したが、それから6カ月後に政府は現代建設の見立て通りに計画を見直した。153億ウォン(約16億3000万円)もかけて「研究」した結果が84カ月だったが、それが突然106カ月になったのだ。ドブに捨てられたこの予算は誰が負担するのか。
【写真】世界で最も恐ろしい空港…列車が滑走路を横切るNZギズボーン空港
加徳島新空港は当初、2035年の開港を目指していたが、釜山万博誘致の過程で2029年12月へと何と5年以上も目標が前倒しされた。北朝鮮式速度戦を思わせるずさんさだ。その後も工事期間を短縮するために空港全体を海上に建設するとした当初の計画は見直され、山を削り陸地から海にかけて建設する全く別の方式に変更された。しかしこの計画だと滑走路は陸地から海上につながるため別々に地盤沈下する恐れがある。この事態にはどう対応するのだろうか。
無理なスケジュールと難工事に伴うリスクが拡大したため、建設各社は入札に慎重になり4回も入札が流れた。紆余曲折を経て昨年10月に現代建設コンソーシアムが優先交渉対象に選定されたが、現代建設は工事期間の2年延長を要求し、その後も最終的に撤退を決めるなど事業は引き続き難航した。
加徳島新空港建設計画は最初に公表された時点から選挙用の政治ポピュリズムに利用された。2016年に韓国南東部の新空港候補地選定作業を行っていたフランス企業は加徳島について「台風や津波に弱く、海を埋め立てた場合も地盤は脆弱」として安全性と経済性の両側面で最初から不適切とした。そのため「金海空港拡張」という結論が一旦は出されたが、2020年に当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権が釜山での選挙対策として再び持ちだし、票を意識した国民の力もこれに同調して今に至っている。適切でない場所に無理に空港建設を進めようとしたため、事前の調査や工事費の見積もりなど全てが省略された状態で「無条件建設」という特別法まで制定された。選挙を前に適切な判断ができなくなったとしか言いようがない。
選挙に全てを賭ける政治家が政策を台無しにした事例は多いが、加徳島新空港建設もまさにそのケースと言えるだろう。釜山・蔚山・慶尚南道地域での世論調査では54%が「加徳島特別法は間違っている」と回答した。地元住民も問題点を理解しているのだ。今も複数の専門家が「加徳島新空港建設は間違いで危険」として「建設費13兆7000億ウォン(約1兆4600億円)の20%で金海空港を今以上に優れた形に拡張できる」と主張している。あらゆる問題で仇同士のように対立する与野党だが、国民の税金を使ったポピュリズム政治では一致団結する。あまりに愚かなことだ。最終的に国と地元に大きな禍根を残す結果にならないだろうか。