▲写真=UTOIMAGE

 11月28日に中国・上海で行われたあるイベントの公演で、日本人歌手の大槻マキさん(52)がアニメ『ONE PIECE(ワンピース)』主題歌の歌唱中、追い出されるようにステージから退場させられた。このため、中国人の観客たちがその主題歌を一斉に歌い出すと突然照明が消え、伴奏も止まった。驚いた観客たちから声がわき上がるや、戸惑っている大槻マキさんにイベントスタッフ2人が近づいてきて、ステージから下がるよう要請した。

【写真】歌手の大槻マキさんが強制的にステージから退場させられる様子

 高市早苗首相が11月初めに「台湾有事の際の自衛隊の武力介入」を示唆する発言をした後、中国で予定されていた日本に関するコンサート・映画・ミュージカルなどが相次いで中止・取り消し・延期されている。中国側は具体的な説明をせずに「不可抗力」とだけ言っている。このため、中国政府が日本との文化交流を中止する「限日令」を本格的に発動させたものとみられる。2016年の終末高高度防衛ミサイル(THAAD)韓国国内配備後、限韓令(韓流禁止令)で韓国に圧力を加えたのとほぼ同じ流れだ。

 中国は日本渡航自粛令も下している。日本経済新聞は11月27日の時点で、中国の航空会社が12月に運航を予定していた日本行き航空便5548便のうち、904便(約16%)の運休を決めたと報じた。この数値は今後さらに増える見通しだ。

■日本関連イベント主催者側「不可抗力」…中国政府が介入か

 日本のメディアが11月30日に報道したところによると、『ONE PIECE』の主題歌を歌った大槻マキさんの所属事務所は当時の状況について「やむを得ない諸事情により急きょ中断せざるを得ない状況となった」と述べたという。この公演の主催者側は翌日に予定されていた公演も「不可抗力」で取り消した。日本を代表する女性歌手の浜崎あゆみさん(47)も11月28日、中国・上海での公演が突然中止されたと発表した。当初29日に予定されていたが、中国の主催会社は前日に中国の交流サイト(SNS)「微博(ウェイボー)」に「不可抗力の原因」で中止すると伝えた。浜崎あゆみさんはSNS「インスタグラム」の「ストーリーズ」に「日本と中国のクルー総勢200名で協力し合い、五日間かけて上海のステージを本日組み終えたが、午前に急遽公演中止の要請を受けた」と書いた。「不可抗力」「やむを得ない事情」は事実上、中国当局の介入があったことを示唆しているものと解釈されている。

 中国・杭州と北京で行われる予定だった『美少女戦士セーラームーン』を原作とするミュージカルも突然中止された。日本人歌手グループのゆず、ピアニストの上原ひろみさんの中国公演も取り消しとなり、日本の芸能事務所「吉本興業」も現在準備中の中国公演を全て中止したという。日本の劇場用アニメ映画『はたらく細胞』と『クレヨンしんちゃん』シリーズ最新作も公開が無期限延期された。

 文化だけでなく、人的交流も事実上断絶の段階に入った。11月に日本渡航自粛令を出した中国は、後続措置として中国航空会社の運航便数を減らしている。中国航空会社は12月に運航予定の日本行き航空便5548便のうち904便の運航を中止することにしたが、座席数で計算すると計15万6000席が消えたことになる。成田国際空港会社(NAA)の藤井直樹社長は「中国の航空会社から減便の話が入ってきている」と語った。今後、運航中止の幅が拡大するだろうという意味だ。日中路線の航空券価格は急落し、関西-上海往復航空券は昨年の半分以下の最安値8500円というものまで登場した。

 日本のホテル・リゾートでは中国人客による予約キャンセルが急増している。大阪観光局は「観光局の会員ホテル20社に聞き取り調査をした結果、年内に予約が入っている中国人客数の50-70%分がキャンセルになっていた」と発表した。

 中国は2016年のTHAAD韓国国内配備時、韓国に圧力を加えた「限韓令」戦略を日本にも同様に適用しているものとみられる。中国外務省・文化観光省・教育省・駐日中国大使館が先月中旬以降、同時多発的に日本旅行・留学警報を出し、人民日報・新華社通信・環球時報・中国中央テレビなどの国営・官営メディアは軍事専門家・学者を動員して日本に対する非難の度合いを高めている。

 中国当局や官営メディアが表面上は「禁止」などの表現を使っていないのも限韓令の時と同じだ。中国政府の告知やメディア報道のどこにも、日本に対する措置に関して「禁止」や「全面暫停(一時中止)」という表現は出てこない。「避免(自粛)」「慎重に計画」「危険評価せよ」といった文言ばかりが繰り返される。まるで中国国民が自発的に賛同しているかのように覆い隠しているのだ。THAADの時、中国は韓国ではなく米国をターゲットにしたが、今回は日本を直接ターゲットにしているため、限日令の方が限韓令より強硬になる可能性があるとの見方も出ている。

 日中対立は1年以上と長期化する可能性が高い。「抗日戦争勝利80年」を大々的に宣伝している中国は、内政や宣伝の面から簡単に退くことが難しい。米外交専門メディア「ディプロマット」は先日、「中国は必要だと判断される期間、高市政権に対し圧力をかけるのをやめないと決心したようだ」と分析した。高市政権が1-2年の短命で終わるとみて、その期間の関係悪化はやむを得ないとの計算があるという意味だ。

成好哲(ソン・ホチョル)東京支局長、北京=李伐チャン(イ・ボルチャン)特派員

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