▲写真=NEWSIS

 韓国与党・共に民主党などにより情報通信網法改正案が24日に可決・成立したが、これに対して新聞や報道各社などから「虚偽・操作情報の基準があいまいで、訴訟の乱発でメディアによる権力批判の機能を萎縮させてしまう」など懸念の声が相次いでいる。市民団体の参与連帯も李在明(イ・ジェミョン)大統領に「再議要求権(拒否権)」の行使を求めた。法律はまだ公布されていないが、共に民主党は親告罪など一部条項を再改正するという。

【表】共に民主党が可決・成立させた情報通信網法改正案の問題点

 改正案は「虚偽・操作情報」を報じた報道機関やユーチューバーなどに損害賠償責任を厳しく追及している。もちろんいわゆる陰謀論を広める一部ユーチューバーに対しては何らかの規制が必要との点では誰もが一致している。しかしメディアや法律に詳しい専門家などからは「法律には違憲的な内容が多く、共に民主党が一部修正を行っても問題は解決しない」などの声が上がっている。

■憲法が定めた「明確性の原則」に違反

 この法案は情報全体が虚偽の場合はもちろん、一部が事実と食い違う場合も「虚偽情報」とし、また事実と誤認させる操作された情報は「操作情報」と規定している。これらの情報を他人に損害を生じさせる意図などを持って広めた場合、損害賠償請求が可能になるという。成均館大学法学専門大学院のチ・ソンウ教授は「不法行為を定めながら、その一方で『意図を持って』とあいまいな文言を使っている。これは明確性の原則に違反している」と指摘した。

 今回の改正案について弁護士などからは「憲法裁判所の決定に反している」との指摘も相次いでいる。2008年にパク・テソン氏(筆名ミネルバ)が「韓国の外貨保有が枯渇した」と主張したとして逮捕され、その後無罪となったが、この問題と関連して憲法裁判所は「公益を害する目的で虚偽の通信を行った人物の処罰を定めた電気通信基本法第47条第1項は違憲」との判断を下した。「公益を害する目的」という条項があいまいで、明確性の原則に反するというのがその理由だった。当時民主党は「民主国家の市民が享受できる表現の自由抑圧はいかなる形でも容認されない」との声明を出した。そのため野党からは「共に民主党は自分たちの過去をひっくり返した」などの指摘も出ている。

■権力者による「報道の抑圧目的」の訴訟が相次ぐ可能性も

 この法案は虚偽・操作情報の流布に伴う損害賠償額を被害額の最大5倍まで請求できるとしている。また「証明が難しい損害」の賠償額は最大で5000万ウォン(約540万円)とし、裁判所が虚偽あるいは操作されたと認めた情報を2回以上広めた場合、放送メディア通信委員会が最大で10億ウォン(約1億1000万円)まで課徴金を徴収するとの内容もある。

 またこの法案は政府高官や政治家などにも報道機関やユーチューバーなどへの損害賠償請求を認めている。この点について報道機関関係者などからは「権力者は自分たちに不利な報道を阻止するため訴訟を乱発するだろう」など懸念の声が相次いだ。いわゆる報道や追加取材をさせない「スラップ訴訟」(口封じ訴訟)と呼ばれるものだ

 共に民主党は法案に「公共の利益を目的とする正当な批判や監視活動を妨害する目的」の場合は報道機関などが裁判所に「中間判決」を申請できるとしている。公職選挙の候補者、公共機関のトップ、企業の役員や大株主などが損害賠償請求を行い、これを裁判所が「中間判決」でその訴訟を却下した場合、原告に却下判決を公表もさせるため、権力者による訴訟の乱用はないと共に民主党は説明している。これに対して中央大学の李仁浩(イ・インホ)教授は「裁判所に司法判断以上の負担を押し付け、恣意(しい)的な判断を強いるものだ。司法への信頼を傷つける結果しか生み出さないだろう」と批判した。

■強大な権限を持つ放送メディア通信委員会

 共に民主党は虚偽の流布に伴う名誉毀損(きそん)を処罰する条項は「親告罪」にしないと定めた。親告罪は被害者が処罰を望まなければ捜査・起訴・処罰が行われない犯罪だ。

 共に民主党は当初、国会科学技術情報放送通信委員会の審査で虚偽による名誉毀損を親告罪とした。ところがその後の国会法制司法委員会では親告罪の条項が削除された。法律に詳しいある専門家は「批判的な世論の手なづけに活用される可能性がある」と指摘する。

 共に民主党は事実摘示による名誉毀損罪も科学技術情報放送通信委員会ではいったん削除したが、法制司法委員会などを経て最終案に再びこれを残した。東国大学のキム・サンギョム名誉教授は「世界的にも前例のない難しい罪だ」「これに懲罰的損害賠償まで導入されれば、メディアに二重の法的負担を負わせることになる」と懸念を示した。

 報道機関関係者などからは「虚偽・操作情報かどうかを国が判断し、禁止するものだ」と批判の声が上がっている。この法案では損害賠償訴訟の対象となるジャーナリストやユーチューバーなどは大統領令で定められるという。現政権で発足する放送メディア通信委員会がその業務を主に担当する見通しだが、委員長は進歩(革新)系憲法学者の金鍾哲(キム・ジョンチョル)延世大学法学専門大学院教授だ。

 韓国言論法学会のシム・ソクテ会長は「放送メディア通信委員会の意向に沿って報道機関に巨額の課徴金を支払わせるものだ」と批判した。ある野党関係者は「強大な権力を持つ放送メディア通信委員会が勝手な基準を設けて政権に批判的なメディアやユーチューバーだけに課徴金を支払わせないと誰が断言できるのか」と懸念を示した。

キム・ジョンファン記者、クォン・スンワン記者、シン・ジイン記者

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