▲イラスト=キム・ヨンソク
あるカフェにはガラスの瓶が置かれている。「TIP BOX(チップ・ボックス)」と書かれた瓶で、その中に折り込まれた紙幣がぎっしりと詰め込まれている。従業員のために「気を利かせてお金を入れろ」という意味だ。先月あるオンライン・コミュニティーに同写真を掲載したネチズン(インターネットユーザー)は「韓国に入ってきてほしくない外国文化」として「米国では従業員の時給を法的に最低賃金より少なく支払ってもいい..
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▲イラスト=キム・ヨンソク
あるカフェにはガラスの瓶が置かれている。「TIP BOX(チップ・ボックス)」と書かれた瓶で、その中に折り込まれた紙幣がぎっしりと詰め込まれている。従業員のために「気を利かせてお金を入れろ」という意味だ。先月あるオンライン・コミュニティーに同写真を掲載したネチズン(インターネットユーザー)は「韓国に入ってきてほしくない外国文化」として「米国では従業員の時給を法的に最低賃金より少なく支払ってもいい理由としてチップがあると聞いているが、韓国ではなぜチップをくれというのか分からない」と書いた。「誰か一人が始めれば、まずは弘益大学の周辺からはやりそうだ」という懸念混じりのレスが300件ほど付いた。
【表】韓国人にアンケート「チップ文化についてどう思いますか?」
次いでカカオタクシーが火を付けた。7月19日から「感謝チップ」制度を試験的に導入したのだ。呼び出したタクシーが目的地に到着した後、星5点を選択した場合に1000ウォン(約110円)から最大2000ウォン(約220円)までチップを与えることができるようにした。「運転手さんに感謝チップとして気持ちを伝えてみてください」。あくまで乗客の自由によるものであり、サービス向上を促すためのタクシー運転手たちの要請に従ったものだという説明だ。お金で伝える心、これまで韓国になかった米国式のチップ文化が徐々に拡大していく兆しを見せている。
■チップで気持ちを伝えろと言うんですか
配車タクシー業界では、チップ決済システムが早くも登場した。2019年に「タダ」が先陣を切って実施し、2021年には「アイ・アム・タクシー」もこれに続いた。星5点を与えるほどサービスに満足すれば、決済ウインドーを通じてチップ提供を選択することができる。「アイ・アム・タクシー」を運営するジン・モビリティーによると、2022年の1年間で利用客のうちチップを決済した割合は7%に過ぎなかった。平均チップ額は3000ウォン(約330円)だという。しかし、今や韓国最大プラットフォームの「カカオ」が参入したことで、本格的なイシューとして脚光を浴びている。
ソウル市鍾路区安国洞や釜山市内の有名なカフェも続々と「チップ・ボックス」を設け始めている。しかし昨年ある飲食店が話題となった。発端はテーブルに乗せてあった案内文だ。「ウエーターやウエートレスが親切に応対した場合、テーブル当たり(御一行当たり)5000ウォン(約550円)程度のチップをお願いします」。もちろん義務事項ではないという旨の説明が小さな文字で付け加えられているものの、「不親切に応対すれば5000ウォンを差し引いてもらえるのか」といったコメントからも分かるように、そのほとんどは不快感を示した。「事業主が従業員の月給を引き上げる代わりに、顧客に負担を転嫁している」というわけだ。
■米国では「チップフレーション」ショック
チップ文化の導入に対する反感の背景には、現在「チップ大国」米国がチップで相当な経済的混乱を招いていることが挙げられる。飛ぶ鳥を落とす勢いで上昇したチップ価格が、いつのまにかコストの40%まで急騰した上、スターバックスのような大型フランチャイズでも注文画面でチップ決済を選択できるようにし始めた。従業員のサービスを一切受けなかったとしても、人目があるためチップを渡さざるを得ない状況が醸し出されているというのだ。有名米国人ユーチューバーのオリバー・シャン・グラントの最近掲載した動画が話題となっている。米国のパン屋の注文画面で1.69ドル(約250円)のベーグルを注文すると、チップを払うかどうかを尋ねる画面が表示されるが、最低金額が1ドル(約146円)からだった。チップのインフレを意味する「チップフレーション」という新造語が登場した理由だ。
米国は飲食店、ウエーターなどサービス業種の連邦最低時給が2.13ドル(約311円)と安く、客のチップに依存せざるを得ない構造となっている。しかし、こうした米国でもチップ文化をなくすべきだとする主張が取り沙汰されている。6月、米国金融情報提供業者のバンクレートがまとめた報告書によると、米国の成人の3人に2人(66%)がチップに対して否定的な立場を示していることが分かった。調査に参加した41%が「業者がチップに依存する代わりに従業員により多くの賃金を支給しなければならない」と答えた。
■好意が続けば権利になるか
韓国国内世論調査プラットフォーム「ザ・ポール」が最近、2万2959人の市民を対象に行ったオンライン・アンケートで「チップ文化についてどう思うか」という質問に61%が「否定的」立場を明らかにした。このうち「非常に否定的」という回答は38%で、「非常に肯定的」(8.5%)の5倍近くに上った。こうした背景には、好意で始まったチップ文化がまるで義務であるかのように変質するといった見方が大きく影響している。「タクシーチップ」の導入についても「テスト導入されたことで、結局出前料金のように固定化する恐れがある」と答えた割合が57.4%だった。
物価上昇とともに出前チップや包装チップなど各種サービスに付き始めた料金も、「チップに抵抗する」雰囲気を助長するのに一役買っている。淑明女子大学消費者経済学科のチェ・チョル教授は「正規料金にプラス・アルファが要求される状況が何度も続けば、消費者は負担にならざるを得ない」とし「こうした習慣が韓国国内に適用されることが本当に正しいのか、しっかりと見極める消費者団体などの動きが必要と思われる」と話した。
チョン・サンヒョク記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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