▲申珏秀(シン・ガクス)元韓国外交部次官/写真=NEWSIS
李在明(イ・ジェミョン)政権が、発足からおよそ1カ月を経て、米国との戦時作戦統制権(統制権)移管協議に着手した。大統領選挙の公約を履行するという観点からだというが、在韓米軍の規模や構成、役割を変更しようとする米国の「戦略的柔軟性」の議論と合わさって、かなりの波紋が予想される。米国からは「韓国軍に統制権を移管して米軍は撤収すべき」「韓国は台湾有事の際に基地を提供しないはずだから、米軍1万人を削減し..
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▲申珏秀(シン・ガクス)元韓国外交部次官/写真=NEWSIS
李在明(イ・ジェミョン)政権が、発足からおよそ1カ月を経て、米国との戦時作戦統制権(統制権)移管協議に着手した。大統領選挙の公約を履行するという観点からだというが、在韓米軍の規模や構成、役割を変更しようとする米国の「戦略的柔軟性」の議論と合わさって、かなりの波紋が予想される。米国からは「韓国軍に統制権を移管して米軍は撤収すべき」「韓国は台湾有事の際に基地を提供しないはずだから、米軍1万人を削減しよう」という主張も出ている。韓国側からは、統制権移管後に核の潜在力確保のために韓米原子力協定の改正を推進しようという主張が提起されている。これについて外交・安全保障分野の大物たちの提言を聞いた。
【表】韓半島有事に支援を行う7カ所の在日米軍基地
■申珏秀・元外交部第1次官
申珏秀(シン・ガクス)元韓国外交部(省に相当)次官は「われわれが軍隊の作戦統制権を持ちたいというのは当然のことだと考える」としつつも「重要なのは、今の変化する安全保障環境の中で、どのくらいわれわれは自力で対北抑止ができるのか」だと語った。申・元次官は「統制権を移管できる環境なのかどうか見てみると、われわれの能力、とりわけ偵察・監視能力は極めて不足」とし「そういう準備ができていない状態で感情的・政治的・理念的理由で統制権移管をしたら、対北抑止と防衛の能力が低下する」と指摘した。さらに「安全保障には練習がない」「われわれが、統制権は取り戻したけれど、北朝鮮が韓半島で不測の事態を引き起こせないように抑止したり、そうなったときに防御したりする上で実質的に問題があったら困るではないか」とも語った。「(誤った統制権移管で)ひとたび国防力が弱まってしまえば、それでもう終わり」というわけだ。
申・元次官は、統制権移管後に在韓米軍が削減される可能性や在韓米軍の再調整問題について「われわれが台湾問題にどのような立場を取るかによって、米国の決定も変わるだろう」と語った。「韓国は中国と近いので、在韓米軍は中国にとって大きな脅威でもあるが、同時に中国の攻撃に対して脆弱(ぜいじゃく)という側面もある」と申・元次官は述べた。米国としては、中国が在韓米軍基地を攻撃してくるリスクを甘受してでも韓半島に米軍を置くことが役に立つのか、それとも日本やグアムのようにもっと遠い場所に移動させる方がましなのか、計算せざるを得ない―という趣旨だ。
そのため「台湾有事の際に在韓米軍が韓半島の外で作戦をすることについて、韓国がより深く理解して支援をするほど、より多くの米軍がより長く韓半島に駐屯するだろう」と申・元次官は述べた。さらに元次官は「もし米国が『韓国は韓半島問題のほかには関心がなく、中国問題に積極的ではない。米中が争っているのに同盟としての役割を果たさず、中立ばかり守っている』と考えるなら、韓半島に米軍を置いておく理由はなくなる」「そういう側面をしっかりと見て、われわれの立場と行動を決めるべき」と語った。
韓米原子力協定の改正について、申・元次官は「北朝鮮は引き続き核・ミサイル能力を高度化していくだろう」「主権国家としてそれへの対応案を模索するという次元で検討すべき」とし「北朝鮮は米国本土を攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を10基保有しているという。米国が本土を攻撃される可能性を甘受して韓国に核の傘を提供し、保護してくれるだろうか、という疑念がどんどん大きくなることは避けられない状況」と語った。
■チョン・インボム元特殊戦司令官
李明博(イ・ミョンバク)政権で合同参謀本部の統制権推進団長を務めたチョン・インボム元特殊戦司令官は「38年にわたり軍生活を送った人間として、統制権移管に反対はしない」としつつも「統制権移管後、われわれの国防に問題がないほど武器と弾薬などを購入しようとすれば、200兆ウォン(約21兆円)あっても足りないだろう」と語った。米軍が提供していた偵察・監視アセット(軍事資産)、米軍レベルの指揮統制能力などを備えるには、巨額の費用が必要なのだ。
韓米は朴槿恵(パク・クンヘ)政権時代に、韓国の軍事的能力、北朝鮮の核・ミサイルへの同盟の対応能力、韓半島と地域内の安全保障環境を評価して決定を下そうという「条件に基いた統制権移管」に合意した。細部の条件は数百項目に上る。これについてチョン元司令官は「弾薬や戦車の数量といった定量的指標は、誰が見ても充足されたかそうでないか分かるが、ほとんどの条件は定性的なので、充足されたかそうでないかあいまい」とし「政府が『統制権の移管を進めよう』と思ったら、評価者が影響を受けることは避けられない」「もし50人の評価者がいて、49人が『条件を充足した』と言ったら、残る1人は『私が見たところでは駄目だった』と言えるだろうか。極めて難しい」と語った。数多くの条件があるけれども、完全に客観的な評価は難しいため、「(政府が)決心しさえすれば韓国軍の能力とは関係なしに統制権移管ができるので危険」とチョン元司令官は指摘した。
統制権移管後の在韓米軍削減の可能性について、チョン元司令官は「今、米国は国防費と陸軍を減らしたがっており、どこで兵力を減らすか、世界の米軍配置を見直している」とし「韓国が『統制権を返してほしい』と言ったら、泣きたい子の頬をひっぱたいてやるようなもの(事態を悪化させるだけだ、という意味)」と述べた。米軍は韓半島の防衛負担を減らしたいと思っているのだから、統制権移管はすぐさま在韓米軍の削減につながりかねない、というわけだ。さらに「在韓米軍の陸軍削減の可能性が高いが、空軍も在日米軍基地やグアムに再配置されるかもしれない。群山空軍基地のような場所は中国の打撃圏内でもある」と語った。
その上で「統制権の移管が自主国防と緊密に関連していることは間違いないが、統制権を持てばそれだけで自主権を持つというわけではない」「韓米連合司令部は、米大統領の指示だけを受けて作戦を遂行するわけではなく、韓米の大統領が合意した内容を履行する」と語ったチョン元司令官。「統制権が移管されたら、韓米連合指揮システムは今よりも弱まるだろう」「平時ならともかく、戦時に韓国軍の将軍が、通訳将校に助けられつつ米軍を指揮するのは容易ではないだろう」と指摘した。
金真明(キム・ジンミョン)記者、ヤン・ジホ記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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