▲カンボジアの港湾都市シアヌークビルの海岸近くの観光団地に建てられた高級ホテル/KBホテルウェブサイト
カンボジアの首都プノンペンから南西に250キロ行くと、同国最大の港湾都市シアヌークビルに着く。南部カンポット州ボーコー国立公園、西部のタイ国境地帯にあるバンテイメンチェイ州ポイペトなどと共に「園区」と呼ばれる大規模犯罪団地が密集する地域だ。ここは過去10年間、「チャイナマネー」(中国資本)の流入とカンボジア政府の全面的な支援を受け、観光・カジノ都市として急成長した。しかし、コロナや世界的な景気低..
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▲カンボジアの港湾都市シアヌークビルの海岸近くの観光団地に建てられた高級ホテル/KBホテルウェブサイト
カンボジアの首都プノンペンから南西に250キロ行くと、同国最大の港湾都市シアヌークビルに着く。南部カンポット州ボーコー国立公園、西部のタイ国境地帯にあるバンテイメンチェイ州ポイペトなどと共に「園区」と呼ばれる大規模犯罪団地が密集する地域だ。ここは過去10年間、「チャイナマネー」(中国資本)の流入とカンボジア政府の全面的な支援を受け、観光・カジノ都市として急成長した。しかし、コロナや世界的な景気低迷などを経て、最近は中国の特殊詐欺組織による犯罪の舞台に転落した。
【表】カンボジアで犯罪組織を運営 米制裁対象の中国出身者たち
シアヌークビルの海岸から北東に約1キロ離れた場所に16のホテルとカジノが集まった複合観光団地がある。団地の中央にある8階建ての高級ホテルには豪華カジノ、広東式高級レストラン、カラオケ施設が入っている。夜になると金色の照明を放ちながら観光客を呼び込む。
ところが、このホテルのすぐ隣の建物は観光客の出入りが徹底的に規制される「制限区域」だ。現地当局と現地在住韓国人によると、この建物では特殊詐欺グループが犯罪活動を行っているという。ある在住韓国人は「韓国人、ベトナム人、インドネシア人の青年がここに監禁されて『仕事』をしている。ひどい拷問を受けて脱出したという噂を数日に一度は聞く」と話した。
このホテルと特殊詐欺拠点の建物を所有している人物は中国出身の徐愛民(63)だ。2013年、中国で違法オンライン賭博組織を運営したとして、懲役10年の刑を言い渡された直後に逃走し、指名手配されている犯罪者だ。徐はカンボジアに潜入し、身分をロンダリングした後、帰化して「ホテル事業家」の仮面を被り、犯罪組織を運営している。
徐の正体は先月、米財務省が制裁の対象に含めたことで世間に知られるようになった。徐が秘密裏に運営していた詐欺犯罪組織による被害が韓国人だけでなく米国人にまで及び、米国の制裁対象となった。米国務省によると、昨年カンボジアを含む東南アジア各国の犯罪組織が米国人を相手に行った詐欺犯罪による被害金額は約100億ドルに達した。米財務省は「徐が所有しているホテルの隣の建物で監禁された奴隷労働者が詐欺行為を強要されている」とし、「(犯罪収益は)プノンペンに設立した不動産開発会社を通じてロンダリング(洗浄)している」と指摘した。
徐と共に米国による制裁の対象となった董楽成(57)もシアヌークビルに株式会社を設立し、実業家を名乗っている。しかし、実際にはホテル内部に犯罪組織のアジトを設け、振り込め詐欺などの犯行に及んでいることが明らかになった。ホテル内のカジノで振り込め詐欺の犯罪収益をロンダリングしているという。米国務省は「董が経営するホテルでは人身売買も行われている」と指摘した。監禁被害者が他の犯罪組織に売られるケースがあるという。
2014年に中国で違法賭博を行ったとして有罪判決を受け逃走し、15年からカンボジアで詐欺組織を運営し始めた佘智江(43)は最近拠点をミャンマー、タイにも拡張した。中国政府による海外賭博取り締まりが強化され、中国人がカンボジアに賭博資金を持ち込むことができなくなったからだ。このため、仲介者が中国国内で賭博参加者の資金を受け取った後、仲介者が現地カジノでカンボジアの通貨に両替する「第三者」方式を考案したという。
国際社会は中国でさまざまな詐欺に手を染めた中国人犯罪者がカンボジアに逃亡し、巨大な詐欺犯罪産業を構築したとみている。人権・政策研究機関ヒューマニティー・リサーチ・コンサルタンシー(HRC)が今年5月に発行した報告書は「過去10年間、カンボジア政府が資金稼ぎとして、中国人犯罪者かから数十万ドルを受け取り市民権を付与した。中国で小規模詐欺を行っていた犯罪者がカンボジアを牛耳る『大物』になった」と指摘した。
カンボジアのフン・セン前首相は、1997年にクーデターで権力基盤を強化した後、「絶対的権力」をほしいままにしてきた。2023年に首相を退いたが、息子のフン·マネット氏が首相の座を継いだ。現地在住韓国人の間では、犯罪組織がカンボジア独裁政権と緊密に連携しながら逃亡犯罪者の世話をしているとの話も聞かれる。長く続いた独裁体制、不足する警察力などが複合的に作用し、「カンボジアは犯罪に寛大な国」という認識が世界に広がっている。カンボジア政府は2020年初めから毎年、特殊詐欺組織を取り締まり、「犯罪を一掃した」と発表している。しかし、国際社会では犯罪組織を黙認するような「甘い取り締まり」にすぎないと疑問を示している。
米平和研究所(USIP)によると、昨年カンボジアで発生したオンライン犯罪で犯罪組織が得た利益は125億ドル。カンボジアの国内総生産(GDP)の27%に相当する。犯罪収益の相当部分がロンダリングされ、カンボジアの支配層に流れ込んでいるという分析だ。国連薬物犯罪事務所(UNODC)がまとめた昨年5月の報告書によると、カンボジア政府は脱出した人身売買被害者を捕まえ、犯罪組織に送り返すなど、犯罪組織に積極的に協力しているとされる。米国の主要機関も「東南アジアの詐欺産業は中国の犯罪組織による米国に対する最も大きい脅威の一つ」「(中国から米国に流通する)薬物フェンタニルの脅威にも匹敵する」と警告している。
チャン・ユン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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