その後の政府の対応はさらに焦りに満ちていた。文大統領は「堂々として決然とした」対応を宣言した。世界貿易機関(WTO)に提訴し、関税報復も辞さないとした。言葉は痛快だが、効果が上がる対策ではない。米国には痛くもかゆくもないカードを切り、真っ向から対処するのだという。それは清国の百万の軍勢の前で虚しい主戦論を叫ぶようなものだった。
政府が外の世界を見つめる視角は幻想に満ちている。正義が幻想に勝ち、善意が通じると考えている。そうでもなければ、対策もないのに「堂々として決然とした」対応などとは言えない。北朝鮮の露骨な狙いに利用されたりしなかったはずだ。しかし、現実は理想世界とは異なる。世界はフェアでもなく、正義も通じない。力と利益の論理が支配するのが国家間関係だ。国益をめぐり弱肉強食の競争が繰り広げられるジャングルに近い。こうした現実を知らない政府が国家経営をうまくやっていけるはずはない。
韓国GMが群山工場の閉鎖を発表すると、トランプ大統領がツイッターでつぶやいた。「彼ら(GM)はデトロイトに帰ってこようとしている」--。トランプ大統領は韓国の被害を米国の国益ととらえた。群山工場の閉鎖は自分のおかげだと言った。トランプ大統領は国家間関係を奪い合いのゼロサムゲームだと考えている。非情で冷酷だ。彼の見方は道徳的に非難されてしかるべきだろう。しかし、それが現実だ。韓国が米国の大統領をののしることはできるが、すげ替えることはできない。それならば、韓国が向こうに合わせ、戦略的に行動する以外にない。