サイコパス大統領は偶然のハプニングで登場したのではない。もちろんトランプ現象の根底には世界化、IT(情報技術)経済に伴う社会の二極化、さらには人口に占める割合が低下している白人たちの焦りがある。しかしわずか二つの政党が「大統領」という現代の王座を巡って文字通り休むことなく、死ぬか生きるかの戦いを繰り広げる大統領制の根本的な問題は深刻だ。大統領制は寿命を終えたにもかかわらず、今も死んではいない。認知症でありゾンビだ。4年前にトランプ大統領は全体の得票数は少なかったがそれでも大統領になった。自らを支持しない国民の方が多かったにもかかわらず、自分勝手に王としての権力を振るったのだ。勝者独占の大統領という地位は本来そういうものだ。内閣制の首相にもおかしな人間はいるが、大統領ほどの権力はない。トランプ大統領の反対側は歯ぎしりをした。今回破れたトランプ大統領の支持者たちも歯ぎしりしているだろう。国に物事の道理というものがないのだ。
インターネットにおけるSNS(会員制交流サイト)は衆愚政治の強力な道具だが、これも同じくトランプ現象に大きな影響を及ぼした。かつてはトランプ大統領のような人間のうそや突発的な言行は、最初からメディアによって検証され分別された。ところが今はSNSを通じて大衆に直接語り掛ける。大衆は真剣に考える政治家から顔を背け、リアリティーショーのようなトランプ大統領の言行に熱狂する。トランプ大統領によるツイッター政治は汚物が浄化槽を経ず河川に直行するようなものだ。
一時期「SNSは民主政治を一層発展させる」と考えられた時期もあった。それが日がたつごとに逆の現象が起こっている。誰もがネットでは見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞こうとする。事実は力を失い、衝動や面白さ、刺激だけが力を得る。青瓦台(韓国大統領府)による蔚山選挙工作という深刻な事件は知っている人の方がむしろ珍しいが、一方で野党代表が寺に干し肉を送った失敗談については誰もが知っている。これがSNS政治だ。国民は統合ではなく「モーセの奇跡」のように完全に二つに分かれている。半分に分かれた国民は自分たちの側の全ての過ちに目をつむる。トランプ大統領が得た47.6%の票がその結果だ。文在寅(ムン・ジェイン)政権のコンクリート支持率も同様だ。トランプ大統領以上のサイコパスであっても、ポピュリズム政策とSNSを利用し、国民をうまく分裂させれば50%前後の票を得られるのだ。