「脱北だからといって全て同じ脱北なのではない」
テレビ朝鮮の番組「牡丹峰クラブ」にパネリストとして出演した脱北者たちが共通して口にする言葉だ。同じく豆満江、鴨緑江を越えても目的地が「中国か、韓国か」によって処罰が大きく変わってくるというのだ。中国に行って密輸品を持ち込んで捕まれば「善良な脱北」と認められ、賄賂でもみ消される場合が多いが、韓国行きを試みて捕まれば管理所(政治犯収容所)の収容対象になる。
同様に海外への送受信が可能な携帯電話の所持は北朝鮮では違法だが、「ウィーチャット」(中国版カカオトーク)がインストールされていれば外貨稼ぎの働き手として減刑され、「カカオトーク」が設置されていれば裏切り者と見なされて厳しく処罰される。北朝鮮は2010年の5・24措置(哨戒艦「天安」撃沈事件を受けた制裁措置)と2016年に始まった強力な対北朝鮮制裁により、中国との公式・非公式での交易が唯一のライフラインとなった。北朝鮮が韓国への脱北に躍起になって阻止しながらも、中国には国境を半分ほど開いている理由がここにある。
このため、脱北者の中国行きと韓国行きとでは、難易度が完全に異なる。中国行きは命を懸ける必要はないものの、韓国行きはそれこそ命懸けなのだ。咸鏡北道の密輸人だった脱北者は「豆満江の幅が狭い所は70メートルほどなので、対岸の中国商店にたびたび立ち寄って生活必需品を買って帰ってきた」という。しかし、同脱北者が第三国を経由して韓国行きを試みたところ、中国公安(警察)に逮捕され、以降は9回も北朝鮮に送還。ようやく韓国の地を踏むことができた。韓国行きの脱北ブローカー費用もここ10年で3倍近くに跳ね上がり、1人当たり1000万-1800万ウォン(約94万-170万円)とされている。