同盟戦略の成否は正確な現状判断にかかっている。どの国にとっても現状判断は国の指導者や政治家の仕事だ。不合理な経済政策は国を衰退させるが、現状判断のミスは国を墜落させる。ドイツと日本は一時輝かしい成長をなしたが、世界情勢を読み違えたためドイツは2回、日本は1回世界大戦を起こし国が占領されるまでに転落してしまった。そのためドイツと日本の現代史を扱う書籍にはそのタイトルの多くに「興亡」という言葉が入っている。
その反対のケースが英国だ。英国は自国が参加した戦争で痛快に勝ったことがない国だ。第1次と第2次世界大戦はもちろん、ナポレオンを没落させたワーテルローでもギリギリの勝利だ。戦闘の最後にプロシア軍が戦場に戻っていなければ、英国の名勝ウェリントンは敗軍の将になっていたはずだ。
それ以上に重要な英国の特徴は20世紀初めまで1回も戦争で敗れたことがないという事実だ。国の指導者や政治家が現状を読み違えたことがないのだ。経済は衰退しても、国の指導者と政治家の眼目は狡猾と言えるほど老獪(ろうかい)だった。負けるであろう戦争に英国を追いやらなかった。英国史に「衰退」という言葉は何度も出てくるが、「墜落」という言葉がほとんどないのはそのためだ。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。韓国が変わり、世界が急変したのだ。NATOは「中国の脅威への対応」を戦略目標に追加した。文在寅(ムン・ジェイン)前政権と同じ流れの政権が今回再び発足していれば、韓国はこの場に招待されなかったはずだ。
韓国のNATO首脳会議出席は「韓国の選択」を意味する。選択は、意図と目標を伴う行動だ。通商国家である韓国は興亡の岐路に立っている。今後はこれまで韓国が最も自信がなかった「政治と政治家の能力」が国の運命を分けるだろう。戦争で敗れたことのない英国を築いたもう一つの要素が、付和雷同しない冷徹な国民だ。この事実は決して忘れてはならない。
カン・チョンソク顧問