愛国の汚染は、米国のみにとどまらない。「セルフ3連任」を達成して事実上独裁者となった習近平国家主席が最も好んで使う単語の一つが「愛国」だ。中国指導部は、内部の結束のために米国・日本・欧州などを敵と設定し、赤裸々な「被害の歴史」を教えているが、これを「愛国教育」と呼ぶ。ウクライナとの戦争が長期化して国民の懐疑が大きくなっているロシアは最近、「ウクライナはもともとロシアの地」という教育を全ての教室に導入するよう強制している。国際法を無視した勝手な歪曲(わいきょく)を、プーチン大統領は「愛国教育」と呼ぶ。ガーディアン紙は「愛国は隠しごとが多い政権の最後の逃げ場」とつづった。
韓国はどうか。右派と左派、どちらも愛国を好き放題に持ち出している。極端かつ過激な発言を繰り返す極右系列のある牧師は「愛国保守」を掲げる。公演シリーズの名称が「愛国公演」だ。他方で左派は、盲目的反日を愛国に設定した。(韓米日合同訓練で)「自衛隊の軍靴が再び韓半島を汚しかねない」「第2の桂・タフト協定は生まれないという法がどこにあるか」といった李在明(イ・ジェミョン)民主党代表の最近の発言が好例だ。李代表の強硬な支持層「ケッタル」が集まっているオンラインコミュニティーでは、気に入らない政治家に文字爆弾を送り付けたり、反尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の政治集会に参加したりすることを「愛国しに行く」という言葉で表現する。民主党内部から自制を求める声が出るほどに過激な行動を取りながら、自分ではこれを愛国だと信じているらしい。
2017年に民主主義の衰退を懸念する著書『暴政―20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』を出版したティモシー・スナイダー・イェール大学教授は少し前、関連のユーチューブ動画を作ってアップロードした。著書で懸念していたことが、ここ数年の間にほとんど現実になったとして、今の状況に合う提案をしようとカメラの前に立ったという。「愛国者〈ペイトリオット〉たれ」というタイトルの第19章について、彼は「国家主義と愛国主義を区別しなければならない」と説明を始めた。「国家主義は、どんなことがあろうとも自分の属する国や集団を盲目的に支持する。逆に愛国主義は、国家の価値を設定し、その価値を達成するために自分が何をすべきか考える。国家主義が現在に安住するものだとすると、愛国主義は未来を志向する」。愛国主義は国家主義より高貴かつ素晴らしい価値であるべき、という意味だ。「君もやはり愛国するのか」という質問が侮辱に聞こえるならば、その社会はどこか病んでいるという意味ではないだろうか。
キム・シンヨン国際部長