こうした二重的な状況故に、韓国はトランプ政権の発足に備えて、他のどの国よりも早くから対策を立てておかねばならなかったのだが、混乱した国内政治により打つ手が中断され、放置された状態になっている。米国は1970年代以来、民主主義と人権の問題を除き、友邦国の国内政治に介入しないのが鉄則なので、韓国の国内政治的混乱も単に懸念の目で眺めるだけという様子だ。ただし最近の弾劾事態によって、韓国にかつてのような親中反米政権が樹立される可能性が小さくないという状況が次第に明らかになるに伴い、米国政府・議会・メディアからこれに対する深刻な懸念の声が上がっている。
特に米国の朝野は、韓国野党が米国の敵である朝・中・ロに対する「敵対視政策」を大統領弾劾事由として明記していた事実に驚愕(きょうがく)し、弾劾主導政治勢力のアイデンティティーに対してにわかに目を向けるようになった。トランプ政権が総力を傾けて対中出征の砲門を開いている時期に、最前方の同盟国に親中反米政権が樹立されて共同戦線から離脱したら、トランプ政権の対中戦略に大きな打撃となるからだ。かつての盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と文在寅(ムン・ジェイン)政権当時の破局的韓米関係を記憶している与党共和党保守陣営の懸念は、一段と深刻だ。韓国政界と社会の底辺に対する中国共産党の膨大な抱き込み工作と国内政治介入疑惑も、懸念の対象だ。
米連邦議会下院アジア太平洋小委のヨン・キム委員長は最近、「韓国の弾劾主導勢力を含む複数の勢力が、韓米同盟と韓米日3カ国協力を毀損(きそん)しようと務めている」と警告した。もし大統領弾劾が現実になり、大統領選挙が行われるとなれば、韓国国民は米中対決の最前線において親中反米と親米反中の選択をしなければならないアイデンティティーの岐路に再び立つことになる。米中が死活を懸けた対決を繰り広げる新冷戦の世界で、「バランス外交」や経済的利益を名分とした二重的な対中政策は、もはや正当化も容認もされ得ない。韓国が望むと望むまいと、選択は避けられない。トランプ政権は、そのときまで韓国に対する圧迫と要求を一時保留する可能性があるが、もし韓国に親中反米政権ができたら、トランプ氏が公言してきた対韓不利益措置が一挙に現実になることもあり得る。
李容濬(イ・ヨンジュン)世宗研究所理事長・元外交部北核大使