無念を減らそうとする「善意」が韓国社会に告訴・告発の急増を招いた【独自】

 「私の全財産を奪おうとして、組織暴力団と特殊部隊が追いかけてくる。元検事長が殺人の請負までしている」

 ソウル警察庁とソウル冠岳、方背、恵化署などにそんな告訴状が先月相次いで届いた。ソウル市鍾路区のJさん(82)が4月30日、告訴状を持参して恵化署に現れると、捜査官らは「また来た」とあきれ顔だった。Jさんは昨年7月から「何者かが私を脅している」という趣旨の告訴状を内容を少しずつ変えながら提出している。

【表】日本を圧倒する韓国の告訴・告発事件数

 昨年末、ソウル江南署にはトランプ米大統領に詐欺にあったという告訴状が提出された。再選に成功したトランプ大統領が政権1期目に自分をそそのかし、金銭を受け取った後、返さなかったという内容だ。同署捜査官は「犯罪容疑も存在しないとみられ、事実上捜査も不可能だが、告訴状を受理したらとにかく手続きを踏まなければならない」と話した。

 昨年1年間に韓国全土の警察署が受理した告訴・告発事件は67万7979件に達した。前年(45万2183件)に比べ50%の増加だ。共に民主党の楊富男(ヤン・ブナム)国会議員が警察庁から提出を受けた資料によると、2020、21年の告訴・告発件数は約40万件だったが、23年から毎年5万~22万件急増している。

 本紙取材チームがソウル市内の警察署における事件受理と捜査の過程を取材したところ、正式な捜査を始めることも困難な荒唐無稽な告訴・告発事件であふれていることが分かった。警察官は昼夜分かたず発生する犯罪に対応する以外に、事実上「嘆願」に近い告訴・告発事件の処理に格闘している。

 これは23年に検察と警察の捜査手続き規定が変更されたためだ。同年10月、法務部は法改正で検察・警察などの捜査機関の告訴・告発状受理を義務化する条項を新設した。法務部は当時「国民の無念を減らす狙いだ」と説明した。

 制度の趣旨は善意だったが、正反対の結果を生んでいる。犯罪が成立しないと判断される告訴・告発件も無条件で捜査を行い、却下(犯罪容疑がないために事件を終結すること)の手続きを踏んでいるために、緊急性がある犯罪に対応する時間を奪われているのだ。

前のページ 1 | 2 次のページ
<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
関連ニュース
関連フォト
1 / 1

left

  • ▲イラスト=パク・サンフン
  • 無念を減らそうとする「善意」が韓国社会に告訴・告発の急増を招いた【独自】

right

あわせて読みたい