■F35戦闘機1機に408キログラムのレアアース
今回ライナスが生産に成功したジスプロシウムは電気自動車用モーターや風力発電用タービンなどに使われる永久磁石の性能を高め、とりわけ高温でも磁石の性能を維持するのに大きな役割を果たします。テルビウムは重希土類元素では最も高価で、偽造防止インクなど特殊な蛍光体に使われるそうです。中国は航空機部品の合金用に使われるスカンジウム、レーザー製造に使われるイットリウムなども輸出規制リストに含めました。
中国によるレアアース輸出規制で最も大きな打撃を受ける分野は米国の防衛産業です。米戦略国際問題研究所(CSIS)の資料によると、F35戦闘機1機の製造に使われるレアアースは408キログラムに達するそうです。大型駆逐艦には2.4トン、攻撃型原子力潜水艦には4.2トンのレアアースが必要です。
米国は2019年の米中貿易対立の際、中国がレアアース輸出規制を行ったため独自のレアアース・サプライチェーン構築を開始しました。2022年にはレアアースを戦略物資に指定し、MPマテリアルズなどに補助金を出して製造工場建設を後押ししました。カリフォルニア州マウンテンパスなどで採掘されたレアアース鉱石を中国に送らず、米国国内で精製し最終製品を作り上げるというものです。MPマテリアルズは今年末に年間1000トンのネオジム永久磁石の生産体制を整えるようです。
■ライナスは米テキサス州にも工場建設
米国防総省も2020年から4億3900万ドル(約627億円)を投じレアアース・サプライチェーン構築を後押ししていますが、その中心となる企業の一つが今回ジスプロシウムの生産に成功したライナスです。米国防総省はライナスがテキサス州に建設中の重希土類精製工場に2億5800万ドル(約368億円)を支援し、この工場は来年から生産を開始します。また米国のUSAレアアース社も今年1月に純度99.1%のジスプロシウム酸化物生産に成功し、大量生産工程の開発をすでに進めています。
オーストラリアは現在北西部のブラウン・レンジ・レアアース鉱山の開発を進めていますが、ここにはジスプロシウムを年間279トン生産できる重希土類が埋蔵されているそうです。ライナスは現時点では生産量が中国よりもはるかに少なく、米国企業が大量生産体制に入るにもまだかなりの時間がかかります。また環境汚染を防ぐため中国よりも製造原価はさらに高くなります。
それでもライナスが今回重希土類の生産に成功したことで、西側諸国も中国のレアアース武器化に対抗できる確実なカードを手にしました。中国がレアアースを武器に米国と欧州に圧力をかけるのは簡単ではなさそうです。
崔有植(チェ・ユシク)記者