過去およそ10年の間に雨後のたけのこのように増えた中国の都市地下鉄が、地方財政を圧迫する巨大なブラックホールになった…という報道が中国国内で相次いでいます。昨年は深センで7.7兆ウォン(現在のレートで約8100億円。以下同じ)相当、北京で4.1兆ウォン(約4300億円)相当の赤字になるなど、経営実績を公開している28都市のうち26都市が大規模な赤字を出しました。29都市の地下鉄の負債規模も、2023年末現在で4兆3000億元(約87兆円)になりました。
【写真】2009年に完工するも未使用 雑草が生い茂る高速鉄道駅舎(山東省シ博市周村区)
中国は、全国55の都市が地下鉄を運営していますが、このうち1キロ当たりの1日利用客数が1万人を超えて重要が十分にあるところは北京・上海など7-8カ所に過ぎないといいます。にもかかわらず、各都市は巨額の資金を投じて地下鉄を建設しました。
中国の地方政府は、政府所有の土地を不動産開発業者に売ることによって財政の半分を賄います。地下鉄の路線を新設して駅勢圏周囲の土地を高く売れば十分だ、と考えたのです。ところが不動産バブルがはじけたことで、状況は変わりました。地方政府は土地売却収益の急減のせいで、ただでさえ財政状況が厳しいのに、地下鉄維持のために巨額の補助金まで支払わなければならない状況に直面しました。
習近平主席の就任後にかなり増えた中国の高速鉄道も、状況は同じです。高速鉄道大国をつくると称し、人口規模が小さくて収益性の確保が難しい地域にまでずらずらと路線を敷いたことで、高速鉄道の建設と運営を担当する国有企業の国家鉄路集団の負債総額は昨年末の時点で6兆2000億元(約125兆円)にまで増えました。高速鉄道と地下鉄を合わせると、負債の規模は1兆4600億ドル(10兆5000億元=約212兆円)に達します。年間の利子だけでも300億ドル(約4兆3500億円)に上るという観測があります。
■不動産を信じて際限なく建設
広東省広州に基盤を置くネット経済メディア「智谷趨勢」は今年5月28日、「地方政府の補助金を除くと、中国国内の主要28都市の地下鉄のうち26都市が赤字状態」だと報じました。深センが407億元(約8210億円)で赤字の規模が最も大きく、北京も217億元(約4380億円)の赤字を記録しました。深センは1日の利用客数が1189万人で、中国の大都市の中では最も多いにもかかわらず、1日1億元(約20億円)以上の赤字を出しているのです。
広東省仏山の状況はさらに深刻です。仏山地下鉄の昨年の売り上げは6億元(約120億円)ですが、要した費用はその4.5倍の27億元(約540億円)にもなります。政府の補助金21億元(約420億円)をもらっても1億8000万元(約36億円)の赤字を出しました。仏山地下鉄は、運営費用を減らすために地下鉄駅舎内の照明を減らし、冷房の温度を調節し、エスカレーターの稼働を止めるなど、さまざまな対策を施行しているそうです。雲南省昆明の地下鉄では2023年、数カ月にわたって給与の遅配も生じました。
地下鉄が赤字を出す最大の理由は、巨額の建設費と金融面での負担があるのに、乗客数が十分でなく、運賃が安いせいです。重慶など一部の都市は、地下鉄の運賃を引き上げるなど対策の整備に乗り出したといいます。珠海トラム1号線、上海張江トラム1号線のように、赤字に耐えられず運行そのものを取りやめるところも出てきています。