今年1月初め、中国のソーシャルメディアでは全体的にステルス機能を備えたダイヤモンド型の大型航空機が飛ぶ様子の写真が出回った。撮影時期や撮影場所は明らかになっていない。機体の各辺の角度が一致しており、レーダー反射面積を抑えるように設計されているように見えた。中国が開発中の長距離ステルス戦略爆撃機H-20(轟–20)ではないかという観測が多かったが、中国政府は公式な反応を示さなかった。
【写真】今年1月に中国SNSで話題になった正体不明の航空機と今年5月に新疆ウイグル自治区で撮影された航空機
5月にはさらに翼だけで構成されたような航空機が撮影された。場所は中国のステルス・無人航空機開発基地がある新疆ウイグル自治区マラン(馬蘭)付近だった。2枚の写真はいずれも機体全体が大きな三角形の形状を帯び、「フライングウイング(Flying Wing)」と呼ばれる米国のステルス爆撃機B-2を連想させる。
中国のH–20ステルス長距離爆撃機開発で大きな進展があったのだろうか。それとも「長距離」技術は確保できず、ひとまず「中距離」ステルス爆撃機を開発しているのか。H–20はこれまで概念図以外には何も公開されていない。米国防総省は昨年末、「中国軍事力報告書」で、航続距離1万マイル(1万6000キロ)のH–20の実戦配備は、早くても2030年代と予想している。
米軍が6月22日深夜にイランの防空システムをかいくぐり、核施設を爆撃することができたのは、B-2ステルス爆撃機のおかげだった。
ところが、このB-2の重要部分であるステルス排気システムをデザインした航空エンジニアは現在「ロッキー山脈のアルカトラズ」と呼ばれる米コロラド州のADXフローレンス刑務所に収監されている。ADXとは「最高度管理」という意味だ。
インド系の「天才エンジニア」と呼ばれたノシル・ゴワディア氏(81)はB-2爆撃機を開発・製造したノースロップ・グラマン社の航空エンジニアで、エンジンの排気口デザインと敵の熱追跡紫外線探知能力を遮断・撹乱(かくらん)する技術の開発で非常に重要な役割を果たした。
しかし、中国に重要なステルス技術を漏えいした容疑で逮捕され、現在はスパイ罪で禁錮32年の判決を受け、安全管理レベルが最も厳重なこの刑務所に収監されている。
ゴワディア氏が逮捕された時期は、中国がH–20ステルス爆撃機の開発を始めた時期と重なる。ゴワディア氏は中国以外にもドイツ、イスラエル、スイスなど少なくとも8カ国に重要なステルス技術を漏えいした容疑で逮捕された。2037年に満期出所するまで生存すれば、93歳になる。
ゴワディア氏は15歳で博士号を取得したとされる天才だった。1963年に米国に渡り、航空工学を学び、米国の市民権を取得し、1968年に軍需企業ノースロップ(後のノースロップ・グラマン)に入社した。
当時米国はベトナム戦争と第4次中東戦争で戦闘機をはじめとする航空機数千機を失った状態だった。敵に探知されない新型航空機の開発が求められていた。
ゴワディア氏はその後20年間、ステルス技術の核心である低探知設計分野で働き、ノースロップと米空軍による「タシットブルー(Tacit Blue)」という極秘ステルス実験機の製造に参加した。この実験機のステルス技術はB-2に、レーダー技術は同社の早期警報管制機であるE-8に採用された。ゴワディア氏は航空機とミサイルのエンジンから発生する熱を敵のレーダーやミサイルが探知・追跡することを防ぐデザインと素材の開発を主導した。
ゴワディア氏の貢献で、B-2爆撃機はエンジン4基を爆撃機の翼の内側に内蔵し、排気口は上向きに設計された。幅広い排気口はガス温度を急速に下げることができ、しかもガスがゆっくりと広く拡散して周囲の空気と混ざるため、敵の赤外線探知機に見つかりにくい。また、排気口周辺を熱を吸収する特殊材料で設計した。赤外線の放出量を減らすとともに、レーダー信号は反射せずに散乱する。