サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長を5年近く法廷に縛った「不当合併、粉飾会計疑惑事件」は17日、韓国大法院で無罪が確定し、企業経営者を強引に起訴する検察の慣行を今こそ断ち切るべきだという声が高まっている。結局は無罪に終わったが、これまでに受けた有形無形の被害はサムスンが丸ごと背負うことになった。
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グループの総帥が2週間に1回の割合で裁判に出廷し、グローバル競争に集中すべきサムスン最高経営陣の関心も法廷に向かわざるを得なかった。ある財界関係者は「いつも法廷に行かなければならないオーナーの前で挑戦的で思い切った新事業を報告できる社長は何人いるだろうか。サムスン内部で『進行中の事業だけを無理せずしっかり維持しよう』というムードが過去に比べて強くなったこともそうした環境と無関係ではない」と話した。
大韓商工会議所、韓国経営者総協会(経総)、中小企業中央会など韓国の主な経済団体は大法院の判決を受け、「韓国経済全体にプラスの効果を期待する」と歓迎する論評を出した。だが、ある財界関係者は「李会長は無罪になったが、反企業ムードに便乗した過度な捜査、裁判長期化という韓国式の司法環境は変わっていない」と話した。どんな企業であれ「第二、第三のサムスンになりかねない」というのが財界の根源的な不安だ。
■サムスンの「失われた時間」
李会長が計102回、2週間に1回の頻度で裁判所に出廷した4年は人工知能(AI)革命が急速に進行した時期だった。李会長の経営権とサムスングループ全体の勢力図を揺るがす消耗的な捜査と裁判は、サムスン電子全体を圧迫する不確実性だった。AI半導体の中核である高帯域幅メモリー(HBM)開発のような重要な投資や合併・買収(M&A)のような経営意思決定で李会長とサムスン経営陣が最善の決断を下すことは難しくならざるを得なかった。
それはそのままサムスン電子の地位低下につながった。スマートフォンやDRAMの世界トップの座も次々とライバル企業に奪われた。昨年スマートフォン1位(出荷量基準ベース)の座をアップルに明け渡したのに続き、今年第1四半期にはDRAM業界世界1位(売上高ベース)もSKハイニックスに奪われた。未来の収益源とされたファウンドリー(半導体受託生産)事業で台湾積体電路製造(TSMC)とサムスンのシェア格差は2021年の38ポイントから今年は約60ポイントへと4年間で1.5倍になった。サムスン内部からはもはや「超格差」という言葉が聞かれなくなった。李会長が海外メディアに取り上げられるたびに捜査、裁判のニュースが付きまとい、ブランドイメージも低下した。