「被害者」ポジション争いを眺める九つの基準とは 【新刊】リリ・チュリアラキ著『加害者は皆、被害者だと言う』

人権の感受性が高い国ほど加害者・被害者間の競合が深刻

【新刊】リリ・チュリアラキ著、ソン・ウォン訳『加害者は皆、被害者だと言う』(銀杏の木社刊)

「被害者」ポジション争いを眺める九つの基準とは 【新刊】リリ・チュリアラキ著『加害者は皆、被害者だと言う』

 最近、ある次官級の人物が「〇〇〇事態、加害者が被害者に変わるケースもありふれている」というタイトルで2020年にメディアに寄稿した記事が物議を醸した。その人物は当該コラムで、秘書に性暴力を振るった権力者の「被害者性」を強調する。「彼は本当に聖人」であり「この事案が『企画された事件』のように見えた」ともつづった。偽計による性暴力事件で加害者が「被害者」にすり替わることは、まれではない。

【表】被害者性を看破するための質問

 誰が被害者なのか? 英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミスク(LSE)メディアコミュニケーション学科の教授を務める著者は、この質問に「競争で勝った人間」と答える。「被害者」というポジションは被害者・加害者間の競合を通して得られる結果物だというのだ。勝つためには社会的地位や、自分を擁護してくれる集団を抱き込む力量などが重要だと語る。著者は、こうした双方の間の闘争を「苦痛の民主主義」と呼ぶ。逆説的なことに、こうした闘争は人権の感受性が高い国で多く起きている。被害者論が活発だからだ。こうした国では、権力者の「被害主張」もむやみに一蹴はされない。

 トランプ政権1期目の2018年、トランプは連邦最高裁判事候補としてブレット・カバノー(Brett Kavanaugh)を指名した。カバノーの人事聴聞会で、パロ・アルト大学教授のクリスティン・フォード(Christine Ford)が「過去30年間、羞恥心故に秘密にしていた」として、30年前にカバノーが自分を性暴行しようとしたと証言した。次いで、同様の被害を経験したという女性がさらに3人登場した。

 カバノーは「明らかな中傷謀略、名誉毀損(きそん)作戦だ。私は被害者」と反撃した。トランプは彼に同情しつつ「若い男たちにとって極めてつらい時代」と発言し、フォード教授はトランプ支持者から殺害脅迫まで受けて苦しめられた。「被害者性」を獲得することに成功し、聴聞会を突破してのけたカバノーは、現在も最高裁判事の座にある。

 本書は、これを「逆転した被害者性」と呼ぶ。著者は「目を潤ませたカバノーの顔は、彼を一介の弱い男に仕立てた。(中略)自分を『苦しめられている者』として演出し、女性被害者の証言に傷を付け、その動機に疑念が集中するように仕向ける目的が込められていた」と語る。

 著者は、近代以降、被害者という地位は常に強者にとって有利であったと指摘する。白人男性の被害は浮き彫りにされるが、非白人や女性の苦痛は消えたのだ。例えば、第1次世界大戦に参戦した英国の白人兵士たちのトラウマについては、社会が格別に注意を払った。逆に、英国軍として参戦した植民地軍人に対しては、そうではなかった。個人墓地も割り当てなかったという。

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