■ノボジーン「韓国人のゲノムは中国で分析」
ノボジーンはゲノム分析企業BGI(北京ゲノム研究所)で副総裁を務めた李瑞強氏が2011年に設立した。BGIは52カ国で800万人以上の妊婦のゲノムデータを中国人民解放軍と共有した疑惑で米議会が法制化を進める「バイオ保安法」の規制対象企業に挙がっている。ノボジーンは2023年、台湾の学校・病院などでゲノム検査を低価格で受注した後、ゲノムデータを中国に持ち出して論議を呼んだ。李妵鍈議員は「韓国健康管理協会は全国の健康診断の約10%を担い、膨大な医療データを蓄積してきた。それを活用して統合的研究を実施可能だと広報している」と述べた。ノボジーンコリアが健康管理協会本部の建物に入居したのは、韓国人の健康診断データの入手が理由である可能性があるとの主張だ。
これについて、ノボジーンは本紙の取材に対し、「韓国で収集されたサンプルは中国またはシンガポールにある自社施設に移転し、分析が行われる。個人のゲノムデータを収集・処理しないので個人情報漏えいの恐れはない」と説明した。中国に持ち出して分析するゲノムが誰のゲノムなのか、個別には区別していないという意味だ。また、健康管理協会の建物に入居したことについては、「協会の生物学的サンプル、健康データベースまたは内部システムにはアクセスできない」とした。
■人体情報保護法の必要性
科学技術界からは、ノボジーンが説明するように、ゲノムを個人を識別していなくても、生体情報自体が国家安全保障に直接関わるため、国外持ち出しは危険だと指摘する声がある。韓国人の生体情報を大量に入手すれば、韓国人がかかりやすい病気を把握し、それを治療する新薬を開発できるためだ。コロナ禍のように、外国に治療薬を依存する状況が生じる可能性がある。韓国人を狙った生体兵器を開発するためにゲノム情報が悪用される可能性もある。
主要国はゲノム情報を厳格に管理している。中国は人類遺伝資源管理条例でゲノム情報を国家戦略資産に指定し、国外持ち出しを事前許可・保安審査の対象に含め、厳格に規制している。ゲノムなど敏感な個人情報に関して「懸念国家」によるアクセスを制限する大統領令を出した米国は今年、司法省が具体的な施行規則を発表した。米国防総省は今年1月、BGIやMGI(華大智造)など中国のゲノム分析企業を中国の軍事企業リストに含めた。欧州連合(EU)は今年、欧州保健データスペース(EHDS)に関する規定を設け、ゲノムなど生体情報を国家が統合管理し、研究目的の使用もセキュリティー規定で厳格に規制を始めた。韓智雅議員は「海外ではゲノムなどの人体情報を国家戦略資産として扱っているが、韓国は政府が国外持ち出しも傍観したままで事実上手をこまぬいている。国民の人体情報を保護するための法律を一日も早く制定すべきだ」と主張した。
郭守根(クァク・スグン)記者