朴裕河著「帝国の慰安婦」が韓国社会に残した功績【寄稿】

 ところが筆者はこの本を「学問的妥当性が欠如した著作物がノイズマーケティングでどのように神話化されるかを示す事例」と批判的に評価する見解にも同意しない。実際にそんな神話を構築してきた人物が誰だったか私たちは今知っている。朴教授の本はその妥当性と完成度とは別に、権力化された市民運動勢力が聖域としてきた慰安婦のドグマに正面から対抗した学術的成果物だった。

 人間の生と歴史は全ての人にとって、同一の実体としては存在しない多層的現象だ。合意された解釈やタブー視される主題に対する新しく挑戦的で甚だしくは常識を外れた主張を通じ、私たちの認識は広がり、精密になり、実体的真実に近づく。学問の自由を憲法で保障(22条1項)する理由がそれだ。しかし、韓国社会で学問が享受してきた自由は制限的だった。権威主義時代にその自由を制約した一次的手段が国家安全保障だったとすれば、今は名誉毀損が主な手段になっている。

 学者が享受する自由と同様、研究対象になる彼らの名誉が大切なことは勿論だ。問題は陣営化された強硬な市民団体が時代精神、正義、献身という名分に二次加害の論理まで加え、過去とその延長線としての現在を眺める自分たちの二分法的善悪論から抜け出した観点を遮断する手段として名誉毀損を誤用していることだ。その結果は、歴史の明暗に対する深層的理解と共感の拡大ではなく、白と黒の論理による分裂と反感の深まりという悪循環を生んだ。慰安婦、済州島四・三事件、麗水・順天事件、光州事件、セウォル号、梨泰院などそのリストは長く続く。現在は昨年12月の非常戒厳令について同じことが繰り返されようとしている。

 名誉は不当に得られ維持される評判ではなく、個人と他人の相互作用によって構成される社会的評価だ(朴容相=パク·ヨンサン=弁護士「新名誉毀損法」)。口封じではなく開かれた意思疎通が出発点なのだ。これは韓国社会の深部に位置する葛藤と分裂の雷管を明らかにする第一歩でもある。閉ざされたドアを朴教授がようやく開けた。協会がその功労を称えようとしたのは当然のことだった。

尹錫敏(ユン・ソクミン)ソウル大メディア情報学科教授

イ・ミンジュン記者

【表】「帝国の慰安婦」裁判の主な争点

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