1990年のこと。ソウル市内にある韓国科学技術院(KAIST)を香港人一行が訪問した。科学に特化した大学を設立する際、韓国でモデルを探したのだ。専門家をどう招聘し、学校をどう運営するのか、一行は細かくメモして帰った。次に訪れたのは浦項工科大学(ポステク)だ。翌年、香港の清水湾(クリアウォーターベイ)が見下ろせる場所に香港科技大学(HKUST)が誕生した。同校は大きく成長し、16年後に韓国の大学関..
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1990年のこと。ソウル市内にある韓国科学技術院(KAIST)を香港人一行が訪問した。科学に特化した大学を設立する際、韓国でモデルを探したのだ。専門家をどう招聘し、学校をどう運営するのか、一行は細かくメモして帰った。次に訪れたのは浦項工科大学(ポステク)だ。翌年、香港の清水湾(クリアウォーターベイ)が見下ろせる場所に香港科技大学(HKUST)が誕生した。同校は大きく成長し、16年後に韓国の大学関係者が同校を訪れ、「香港科技大ベンチマーキング」報告書を作成することになる。
香港科技大が開校した年、マレー半島の先端には南洋(ナンヤン)工科大学(NTS)が開校した。シンガポール政府の集中的な支援を受けた同校は、大胆なスカウト制度を採用した。若い科学者に約8億ウォン(約8000万円)の研究費を与え、ノーベル賞審査委員長出身の学長を迎えた。40カ国の学者が教授に志願した。昨年「朝鮮日報・QSアジア大学評価」で、南洋工科大はアジアトップに輝いた。
両校が短期間に成長できた動力源は資金とリーダーシップだ。南洋工科大の年間予算は1兆8000億ウォンだ。韓国の科学専門4大学が昨年政府から受け取った資金は4500億ウォンだ。その上、若い2つの大学を率いた歴代学長は昨年末までにそれぞれ3人だけだ。平均9年在職し、学長が変化と革新を主導した。1971年に開校したKAISTはこれまでの総長の平均任期が2-3年だ。政権、閣僚が代わるたびに総長も代わるのが韓国の現実だ。大学の明暗が分かれるのは当然だ。
中東がオイルマネーを大学に投資し始めたのは10年余り前からだ。サウジアラビアは2009年、キングアブドゥラ科学技術大学(KAUST)を開校し、21兆ウォンをつぎ込んだ。今年の韓国の大学支援予算(9兆4900億ウォン)の2倍以上だ。巨額の投資だった。その資金でカリフォルニア工科大学の学長ら大物をスカウトし、各国から学生を集めた。同校は成長著しいが、現時点での悩みは世界的な認知度をいかに高めるかだ。名門大学になることはそれほど難しいことなのだ。
韓国ではその後、「韓国版MIT(マサチューセッツ工科大学)」を目指す大学がいくつかできた。KAIST、浦項工科大に続き、光州科学技術院(1995年)、蔚山科学技術院(2009年)、大邱慶北科学技術院(11年)が開校した。いずれも選挙公約によるものだった。現政権は「韓電工大」を設立すると言っている。世界のトップレベルのエネルギー専門大学にする構想だ。22年に開校を予定している。6月の地方選挙を控え、現在光州市と全羅南道では韓電工大の誘致合戦が熱を帯びている。
韓国電力は昨年10-12月期に1300億ウォンの赤字を出した。政府が脱原発を掲げ、原発の稼働率を大きく低下させたためだ。エネルギーに特化した大学になるためには、原子力工学科を設置しなければならないはずだ。しかし、韓国の原子力学界は昨年から意識喪失症にかかっている。過去40年にわたり必死の研究を行い、ようやく世界最高レベルに達したにもかかわらず、急に「なくすべき学問」というレッテルを張られたからだ。こうした不合理と矛盾の中、新たな大学が誕生する。
全ての大学が「韓国版MIT」にはなれない。誰かが世界で争い、別の誰かが産業人材を着実に育成すればよい。誰もが国家代表になると言いだした瞬間、国の高等教育は堕落し、個人も不幸になる。選挙で「韓国版MIT」というスローガンはもうたくさんだ。学齢人口30万人の時代に大学は有り余っている。時には合併・統合してこそ、外の世界と競争できる底力を養うことができる。
アン・ソクペ論説委員
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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