韓国学生運動勢力の儀典【萬物相】

 1980年代、大学生だった頃のことだ。学生運動勢力の上部組織である全国大学生代表者協議会(全大協)の集会に参加した。耳を疑うような声を聞いた。壇上の司会者が「全大協議長が入場されます」と叫んだのだ。同じ学生なのに敬称で呼ぶことが気になった。数年後、他の大学で開かれた全大協集会には議長が駕籠(かご)に乗って会場入りした。王のお出ましを見ているようだった。

 全大協が学生運動を率いた1980年代末から90年代初めにかけ、学生運動勢力には「儀典」が存在した。学生組織とは思えない敬称ときらびやかな舞台で議長の権威を高めた。それを担当していたのは全大協事務局だった。議長が入場する入口に「文宣隊(文化宣伝隊)」がたいまつを持って整列したり、舞台で「議長様を仰ぐ」といった讃歌を歌った。議長登場の劇的効果を高めるために、行事をわざと夜間に開くこともあった。そんな全大協事務局出身の中には、前政権の青瓦台で儀典を担当した人物もいる。

 全大協議長選出のための代議員総会の会場は、個人崇拝の場を彷彿とさせた。各候補の陣営は「議長と一緒なら死さえ甘美だ」というスローガンを叫んだり、「議長をどのような姿勢で擁立するのか」というテーマで討論を行ったりした。会場には死守隊という議長警護組織が配置された。議長が選出されると、「議長の指示に従います」という忠誠の誓いを立て、「議長の指導に従い、祖国の自主民主統一を力強くもたらそう」という北朝鮮式の口調を使った。 民主国家で他にどこの組織がこんな選挙をやるのかと思った。全北大の姜俊晩(カン・ジュンマン)教授は著書で「運動勢力の主軸であるNL(民族解放)主体思想派が北朝鮮の首領体制を模倣し、全大協議長を崇拝している」と皮肉った。

 全大協の実質的な後ろ盾だった安熙正(アン・ヒジョン)元忠清南道知事を補佐した当時の儀典秘書が本を出版し、知事時代の帝王のような振る舞いを公にした。安元知事が「鉄のように固い儀典」を望んだというのだ。随行秘書が公館警備勤務者に退勤した知事の到着予想時刻を知らせると、公館勤務者はあらかじめ門を開け、敬礼で出迎えた。予防接種も看護師を執務室に呼び寄せたという。常に王のように暮らしていたためか、性的暴行被害者にも「気にするな」などと言えたのだろう。

 陳重権(チン・ジュングォン)元東洋大教授は、運動勢力の儀典意識がもたらす政界の後退を「封建的習俗が生んだ文化遅滞」と説明した。民主化運動勢力出身の政治家の中には王朝時代に主人が目下の人を責めるように「無作法なやつ」「恐れ多くも」などという言葉を使う人がいる。それを見るにつけ、運動勢力の権威的な儀典意識から抜け出せずにいることは明らかだ。

金泰勲(キム・テフン)論説委員

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